第218話 俺の選ぶ道
「ひっ、ひぃ! お、おんな!? これ以上来ないでくれ!」
「なんですって!? 失礼しちゃうわね!」
質問そっちのけで
「ウンディーネ、ちょっと待って。ロックは別にあなたが怖いとかじゃないんだ。こいつにはお姉さんが3人いて、子どもの頃に散々おもちゃにされてきたトラウマで、女性恐怖症になってるんだよ。だから、ウンディーネにもそういった反応をしたんだよ。そうだな、ロック?」
アラタの横でロックは激しく同意するように首を縦に動かしていた。
「へえー、あ、そうなのね。私を女性扱いしたと……ふーん」
(あれ? なんかまんざらでもなさそうだな。この人、割とチョロイ系の性格なのかもしれないな)
明らかに嬉しそうな反応を見せるウンディーネに対し、意外な一面を見たアラタ達。このような威厳もへったくれもない感じで、水の精霊ウンディーネとの数か月ぶりの再会を果たすのであった。
水の精霊の出現に休憩をしていた仲間達が続々集まって来る。水の精霊ウンディーネと言えば4大精霊のリーダー的ポジションであり、外見は人魚のように優美で物腰が柔らかいという男性の女性に対する理想像を具現化したような存在である、というのが一般的に認知されている情報だ。
しかし、魔王軍は知っている。ウンディーネは割と俗っぽい性格をしており笑い上戸で、どことなく無理をして上品な振る舞いをしている事に。そう思いつつも、精霊には精霊の事情があるのだろうと余計な事は言わないのであった。
「久しぶりですね、魔王軍の方々。それに、豪炎の勇者の皆様」
「久しぶり、ウンディーネ」
数ヶ月の時を経て邂逅する魔王と水の精霊。アラタの様子を一通り見るとウンディーネは微かな笑みを見せる。
「いい表情をするようになりましたね、魔王。旅の道中の事は他の精霊達から色々と話を聞きましたが、良い旅であったようで何よりです」
「へへっ、まあね。確かに色んな事があった。怖い事、辛い事、腹の立つ事、でも今振り返れば楽しい事の方が圧倒的に多かったと思う」
異世界に来てからのアラタの思いを聞いて、微笑みを浮かべる魔王軍の面々。スヴェン達もその雰囲気を心地よく感じていた。
「――その長い旅の中で、あなたの決心はつきましたか? 元の世界に帰るのか、それとも魔王としてこの世界に留まるのか」
真剣な眼差しを向けるウンディーネから一切視線をずらすことなく、少年は迷いのない口調で返答する。
「ああ、ぶっちゃけ結構前に決心はついていたけど、そこから何度も思い返して……それでもやっぱり俺の意思は変わらなかった。……水の精霊ウンディーネ、俺と契約し〝解呪の儀〟の実行をお願いしたい。俺は〝魔王〟として仲間と一緒にベルゼルファー、そしてその信徒と戦う道を選ぶ!」
正式なアラタの決意を聞き、各々身を引き締める魔王軍の仲間達。元々、この世界に関わりのない平和な世界で過ごしてきた少年が選んだ、戦いへの道。
1人の少年の人生を変えてしまった自責の念、そして自分達と戦う事を選んでくれた彼に対する信頼の思い。
各々その気持ちを胸に改めて彼と共に歩む決心を固くするのであった。ウンディーネはそんな魔王軍の1人1人に目を通し、再びアラタを見つめた。
そして、指先をアラタの額に軽く当てると、そこに青い紋章が輝きだす。すると胸で黄色い紋章、左手で緑の紋章、右手で赤い紋章が共鳴し輝きが増していく。
「まだ、契約してないのにどうして?」
「あなたとの契約でしたら、初めて会った時に済ませておきました。あなたが、炎、風、大地の精霊と契約し、この場所に来た時に発現するようにしておいたのです」
「随分と準備がいいなぁ」
その手際の良さに全員が感心する中、ウンディーネは少し得意げな様子だ。
「それで、これからどうすりゃいいんだ? ここで、解呪の儀をするの?」
「いいえ、解呪の儀は正式な場所で行われます。そしてそれは間もなく姿を現します」
ウンディーネが説明した瞬間、アラタの額にある青い紋章の輝きが強まり、そこから青い光線のようなものが放たれ、だだっ広い湖面へ当たった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます