第214話 最後の契約の地へ②

「こっちを見ろ! このアホ魔王! 逃げんなコラッ!!」


「アホ、アホ、アホ、アホ、うるっせー! このツンデレ勇者! 正義の味方は別に恥ずかしい事じゃないだろーが! それを恥ずかしいと思ってるんなら、今日からツンデレでも極めてろ! このツンデレ!!」


 魔王と豪炎の勇者の語彙ごいは死亡していた。2人のやり取りを見ていた仲間達は腹を抱えて笑う者、苦笑する者と反応は十人十色ではあったが、皆おおむね暖かい目で見守っていた。


「いいね、この雰囲気。正直君達がうらやましいよ。僕はいつも単独で動いていたから、今更ながら仲間っていうのがどんなに大事か思い知らされたよ」


 少し寂しそうな表情を見せるルークに対し、つかみ合いをしながらアラタとスヴェンがすっとんきょうな顔を向けている。


「何言ってんの、リュウさん? 仲間ならいるじゃん、目の前にたくさん」


「まったくだ! シェスタでの戦いを一緒に乗り切った時点で、っつーか同じアストライア騎士団の一員の時点で仲間だろーが!」


 2人の言葉を聞いてルークが顔を上げると、魔王軍とスヴェンパーティーの仲間達がルークを笑顔で迎えていた。


「そっか、僕は本当に馬鹿だな。勝手に勘違いしていただけで、僕の周囲にはこんなにたくさんの仲間が既にいたのか」


「そういうこと! それに俺達魔王軍にとってもスヴェン達にとっても、リュウさんは恩人なんだから! 勝手に仲間から外れたら困るよ」


 その後、穏やかな雰囲気の中とうとう出発の頃合いとなり、魔王軍と豪炎の勇者一行が屋敷の敷地から出て行く。アラタとスヴェンも仲間達に続いて歩いて行き、その後ろ姿がどんどん小さくなっていく。

 彼らを屋敷から見送っていたルークは自身の可能な限りの大きな声を出していた。


「アラター! 君が地球に帰るのならこれが最後の別れになる! でも、魔王の道を行くのなら! いつか一緒に戦える時を楽しみにしてるよー!」


 そんなルークの声が届いたのか、アラタは振り返り大声で返答する。


「リュウさーん! 次に会う時には、俺必ず強くなってるからー! リュウさんにも、スヴェンにも負けないくらい強くなって見せる! 俺頑張るよー!!」


 ルークに大きく手を振った後、アラタは駆け足で仲間達の後を追っていった。その姿が見えなくなるまでルークはその場に留まり、スザンヌが側に歩み寄る。


「素敵なお友達が一杯出来て良かったですね、坊ちゃま」


「坊ちゃまはよしてよ、スザンヌ。僕は一応成人してるんだから」


 ルークは慌てながらスザンヌに抗議するが、メイド長は普段のクールな表情とは異なるにこやかな笑顔を見せていた。その顔を前にすると、さすがの勇者もこれ以上は何も言えなくなってしまう。


「……でも、そうだね。すごく嬉しいよ。それに、次に会った時にアラタがどんなふうに成長しているのかすごく楽しみだ」

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