第215話 忘却の都市アクアヴェイル①

 アクアヴェイル――かつて水の都として栄えた大都市であったが、魔王乱立時代において、魔王同士の戦いに巻き込まれてしまう。

 その結果、大都市内の水資源をコントロールする心臓部であった水の魔石が破壊され、都市機能は麻痺してしまう。戦いから逃げのびた住民達が、破壊され魔石も修復不可能な都市に戻ってくる事があるはずもなく、アクアヴェイルは間もなく廃墟と化した。

 それから約200年後、現在魔王軍と豪炎の勇者パーティーが、この地に足を踏み入れていた。


「やっと着いたか。別荘地であるマッコスの町を出発して3日。途中、でっかい亀の魔物や陸まで上がって来るサメの魔物、とんでもない数の鳥の魔物に襲われながら、ようやく……ようやく到着した!」


 アラタ達が出くわしたのは、ジャイアンタートル、グラウンドシャーク、ホーミングバードであり、いずれも海岸周辺で生息している魔物である。

 ジャイアンタートルは亀型の魔物である。魔物の中では比較的大人しい部類であり、普段自分達から襲ってくる事はない。

 だが現在産卵期で気が立っており、近くを通りがかったアラタ達を敵と見なし攻撃をしてきた。しかも、産卵に訪れていたのは1匹だけでなく、複数が浜辺におり一斉に襲ってきたという最悪の状況であった。

 ジャイアンタートルは威嚇として桁外れな音量の鳴き声を放ち、敵を麻痺させてその間に逃げるという行動を取る。だが、今回は攻撃に打って出てきたためやむなく撃退したのだった。

 ちなみにジャイアンタートルの甲羅は武器などの素材として、結構な値段で取引されるため、アラタ達は魔石と一緒にしっかり回収していた。

 グラウンドシャークは、一見某有名映画に出てくるような巨大なサメである。しかし、こいつは短時間であれば陸の上でも活動可能で、獲物を追って海岸で暴れまわる厄介な存在だ。

 陸上を移動する際には身体の底部にエアリアルをかけてホバーのように素早く移動できる。浜辺で休息していた魔王勇者パーティーを急襲したが、相手が悪くドラグ、セス、スヴェンの手によって消し炭にされた。

 ホーミングバードは、巨大なくちばしを持ち空中からミサイルのように突っ込んで来る危険極まりない鳥型の魔物で、通常群れで行動している。そのため、遭遇すれば必然と多量のミサイルに襲われるような事態になる。

 その例に違わずスヴェン達が群れに襲われたが、エルダーの重力系魔術〝グラビティ〟で地面に叩き落とされた後にセスの炎系魔術〝バーンウェイブ〟で焼かれ、その日の夕食は焼き鳥パーティーとなった。

 話は戻り、ここアクアヴェイルは人が住まなくなってから久しく、崩れかけた家屋には、植物のツタがびっしりと張っており、街の半分近くは木々に飲み込まれている状態である。

 人の生み出した文明が自然の前では無力だという事を証明している。そんな事を考えさせられる光景であった。

 町中に張り巡らされた水路には今も街の外から入ってきた海水が循環しており、生活排水などの不純物もないため水路の底が見える程の透明感を維持している。水路に掛けられた小さな橋の多くは崩れ、建物と同様にツタが絡まっていた。

 アクアヴェイルの中心には巨大な噴水広場があり、街中の水路はそこに流入している。4大精霊の他の3体とは異なり、水の精霊ウンディーネには彼女をまつほこらはない。

 このアクアヴェイルでは水の精霊たるウンディーネを信奉し、彼女の為に作成したのがこの噴水広場であり、祠としての機能を有している。

 アラタ達はこの噴水広場を目指して、崩壊した街の中を進んでいた。

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