第213話 最後の契約の地へ①
バルザスの一件があった翌日の朝、魔王軍とスヴェンパーティーは出立の準備を終えて、屋敷の正面玄関に集合していた。
そこには、彼らを見送るためルークやスザンヌ、屋敷のメイド達の姿もあった。
「本当に頂いてしまってもよいのですか? この料理のレシピはメイド協会〝ゴシック〟秘蔵のもののはずですが」
メイド長スザンヌは困惑しながら、アンジェから掌サイズの手帳を受け取っていた。その中には、様々な料理のレシピが記載されていた。
「ゴシックの料理関係の情報は特に秘匿されているわけではないので、問題はないと思います。皆様には色々とお世話になってしまったので何かお礼をと考えたのですが、これぐらいしか思いつきませんでした。受け取っていただけたら幸いなのですが……」
「……分かりました。ではありがたく頂戴します。アンジェリカさん、落ち着いたら皆様と一緒にまたいらしてください。ルーク様もそうおっしゃっていますし、私達も個人的に旅の事やゴシックの事とか色々とお話したいと思っています」
「はい。ではいつか必ずお伺いさせていただきます」
2人のメイドは丁寧にお辞儀をしあうと、それぞれの主人の下へと戻っていく。その頃、アラタはルークと握手を交わしていた。
「リュウさん、本当にありがとう。おかげで最後の契約地にも万全の状態で臨めるよ。それに、貴重な魔術書もたくさんもらったみたいだけど本当にいいの?」
「構わないよ。譲ったのは僕には扱えない系統の魔術書だからね。ここで眠っているより、ちゃんと活用してくれる人のところにあった方が魔術書も本望だと思うから。でも残念だ、アクアヴェイルには行った事がないから〝星渡り〟で行く事もできないし、王都にも戻らないといけないから君達に付いていく事も出来ない。正直もどかしいな」
「何言ってんだよ。そんなに甘やかしたら、このアホ魔王がつけあがるだけだ。現時点で十分すぎるくらい肩入れしたんだ。程々にしとけ、ルーク」
アラタとルークの会話にスヴェンが割って入り、まだお土産を渡そうとする閃光の勇者に釘を刺す。アラタとスヴェンは互いに睨み合うが、それを見たルークは笑っていた。
「君達は本当に似た者同士だね。正義の味方を目指すのなら、それくらい血気盛んな方がいいって事かな、ははは!」
「なっ! ちょ、リュウさん! その話こいつの前じゃ禁止って言ったじゃん!」
「この口軽魔王、よくもあの話をこいつに話したな。そのせいで、昨日は散々こいつにネタにされたんだぞ! おまけに『僕も正義の味方になる』とか言い出す始末だ! このアホ! どうしてくれるんだ!」
「え? マジかっ!? いやー、それなら別にいいんじゃないですかねー。正義の味方を志す人は多いに越したことはないんじゃないかなー?」
アラタはスヴェンから目を背けて明後日の方を見ながらはぐらかすが、豪炎の勇者はそれを逃さない。昨晩ルークにからかわれた事で彼の怒りは簡単には治まらないのであった。
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