第199話 ムトウ・アラタ①
一旦気持ちを切り替えて、その後はシェスタ城塞都市で別行動を取っていた時の話をして3人は盛り上がっていた。
「――――すると、そのアロケルっていう獣王族の十司祭といずれやり合うのか……大変だなあ、ロック」
「そうでもないぜ、おかげで目標が出来たんだから! 後はそこを目指して自分を鍛え直す。そして、あいつより強くなってみせる!」
「具体的にはどうするつもりだ? 何か策があるのか?」
「まあ、な……実は俺、獅子王武神流の全ての闘技を習得しているわけじゃないんだよ。だから、この旅が一区切りしたら師匠の所に戻って修行し直して、獅子王武神流の奥義を習得するつもりだ。まずはそこからがスタートラインってとこかな?」
「それじゃあ、しばらく魔王軍を離れるのか……寂しくなるな。でも、奥義かー、なんかそそる響きだね。俺も呪いが解けて思う存分魔力が使えるようになったら、すんごい技とか使えるようになるのか?」
闘技関連の話でますますヒートアップするアラタとロックの2人。男子がこのような話題が好きなのは地球でも異世界でも関係ないらしい。その一方でセスは真面目な表情でアラタに問う。
「魔王様、それ以前に本当にいいのですか? この世界に残るという選択をしたと、以前仰られていましたが、ウンディーネとの契約にはまだ時間があります。元の世界に戻るという選択肢に関しても、もう少し考えられた方がよいのではないですか? 今さらこんな事を言えた義理ではないですが、ご家族も心配しているでしょうし」
〝家族〟という言葉が出た時にアラタの顔に陰りが表れ、先程までの盛り上がっていた雰囲気は一瞬で消え去った。
緊張感が高まる空気にロックは辟易し、セスを肘で小突いたがセスはあくまで真剣であった。先の戦いで生死の狭間を
最初、沈黙を守っていたアラタではあったが、決意を固めたようにセスに負けない真剣な顔で重い口を開く。
「俺さ……7歳の時に交通事故で家族全員死んじゃったんだよね」
いきなりの重大発言にセスとロックは「えっ!?」と声を上げてしまう。だが、アラタは2人の反応を見つつ淡々と話を続ける。
「その後は、俺の父親のお兄さん……つまり、叔父家族に引き取られて養子になった。元々、叔父家族とは仲が良くて、俺も従姉とは小さい頃から遊んでいたから本当の姉さんのように思ってた。だから、引き取られた時も割とすんなり馴染めた。……いや、むしろ馴染めすぎたんだ。そしたら、ある日気が付いたんだよ」
「何に気が付いたんですか?」
疑問を投げたセスを一度見て話を再開する。
「亡くなった家族の顔をちゃんと思い出せなくなっていたんだよ。そしたら、凄く怖くなってすぐに家族の写真を引っ張り出して確認した。…………俺が……唯一生き残った俺が、ちゃんと覚えていないといけなかったのに、俺が忘れてしまったら死んでしまった家族は何だったんだろうって思ったんだ。何のために生きてきたのかって……それからは、叔父家族とも少し距離を取るようにした。そうすれば、元の家族をちゃんと覚えていられるって思ったから。……本当に馬鹿だよな、俺。そんな事、きっと父さんも母さんも、妹のチセも望んじゃいなかったのに! 叔父さん達は皆優しくて、俺を受け入れてくれていたのに、俺は自分で勝手に距離を作って遠ざけて悲しませた。本当は、こんなのはただの独りよがりだっていうのは分かってる。……でも……それでも、そうする事が俺に出来る死んだ家族への罪滅ぼしだと思ってやめられなかった。父さんも母さんも若くして死んで、チセもまだ小さかったのに……まだ、なにも楽しい事なんてしていなかったのに……生き残った俺が、その事を忘れて自分だけ幸せになるのはずるいって、そんな資格はないって思ってた。この世界に来てからも最初はそう思ってた。……本当は内心わくわくしていたのに、そんな感情を抑えて楽しまないようにしてた。…………本当に最低な奴なんだよ、俺は……大切な人達の善意を踏みにじって生きてきて、この世界に来て、魔王がどうとか、正義の味方がどうとか言ってるんだから」
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