第195話 そして朝が来る

 ノームの助力により、闇が広がる道の先に一筋の光が見えた彼らはそこに向かって走り続ける。

 治癒術をかけ続けるアンジェ、シャーリー、ルークの3人は自らの限界を超えて魔力と気力を振り絞り、それを見守る他の者もアラタに声をかけ続ける。

 その間、騎士団の監視塔に戦いの報告に行っていたコーデリア達も合流し、アラタの無事を創生神サイフィードに祈るのであった。

 漆黒の空の深い暗闇が少しずつ薄れていく。太陽が昇り始め、闇を打ち払うように世界は光に祝福され、様々な色に彩られていった。

 絶望が支配した長い夜はついに終わりを迎え、朝が来たのだ。

 そして――――。


「よ…………し!! もう、大丈夫です。魔王さんは助かりました! 後は安静にしていれば元気になりますよ」


 シャーリーから無事にアラタの治療は終了した事が告げられ、皆は泣きながら歓喜していた。


「まおう……さまぁ、よがっだ…………よがっだああああああああああああ!」


「ああ! 本当によかった、よかったなーーーー、せすぅーーーーーー!! うっ、うぐっ! うわーーーーーーーーーーーん!!」


 セスは顔をぐしゃぐしゃにしながらアラタが助かった事に喜び、隣にいたロックに抱きついていた。ロックも赤髪の青年に負けないくらい顔を涙で濡らしながら一緒に大泣きしていた。

 その近くでは声を殺しながら泣くドラグの背をバルザスが優しく叩いていた。この老紳士の目からも静かに喜びの証が流れ落ちてはいたが、彼はそれを悟られないように気丈に振る舞い、皆を労うのであった。

 トリーシャとセレーネは危険な状態を脱したアラタの手を握り、そこに自分の額を当てながら安堵の涙を流し、何度もシャーリーやルークにお礼を言った。

 そして、最後まで治癒術をかけ続けた仲間のアンジェを抱きしめ、彼女の頑張りをたたえる。

 すると、仲間の感謝の言葉に触発されたのとアラタの命が助かり緊張の糸が切れたのとで、普段クール系のメイドはトリーシャとセレーネに抱きしめられながら子供のように泣きじゃくるのであった。

 魔王軍の姿を見ていたスヴェン達もまた、その目から熱いものが流れていた。特にスヴェンは仲間達に背を向け、鼻をすする音がしばらく聞こえていた。

 コーデリア達は、そんなスヴェンをそっとしておき、アラタの回復に尽力したシャーリーとルークに労いの言葉をかけている。

 大地の精霊ノームはアラタが助かったのを見届けると、皆にお礼を言われながら振り向くことなく「じゃあ、またな」という一言と共に消えて行った。




 このシェスタ城塞都市で起きた一夜の戦いによって、町の住民の半数近くが犠牲となり家屋のほぼ全てが倒壊炎上するという悲惨な結末となった。

 そして、これは破壊の神の復活を目論む破神教の仕業であるという噂が一時広まるが、アストライア王国は国内がパニックになる事を恐れて、この戦いの情報規制に力を入れ真実はうやむやになってしまう。

 代わりに魔王軍関連の情報を流す事で周囲の目をそこからそらすのだが、それは国民が破神教への危機意識を持つ機会を奪う事になり、ますます敵の戦力増強を許す事に繋がる。

 この愚行がアストライア王国存続に関わる事態に発展するのだが、それを彼らが身をもって体験するのは暫く先の事である。

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