第189話 例えこの身が滅ぶとも①
2人が勢いよく地上に落下していく様子を目の当たりにする者達がいた。アラタを追ってきたトリーシャ達である。
「マスター!? あんなスピードで落ちたら助からない!」
町の中央部での戦いで魔力のほとんどを使い果たしたトリーシャ、ドラグ、セレーネの3人には〝
その時、意を決したセレーネがドラゴンテイルをトリーシャの身体に巻きつかせる。
「トリーシャちゃん! 今からあなたをアラタちゃんの所に投げるわ! だから、しっかり彼を掴まえるのよ、いいわね!!」
「! 分かった! セレーネ、お願い!!」
セレーネはドラゴンテイルをしならせ、反動をつけてトリーシャを思い切り投げ飛ばした。
トリーシャは身体を真っすぐに伸ばし、空気抵抗を最小限にする事で飛行速度をなるべく落とさないようにする。
「マスターーーーーー!!」
トリーシャは真横からぶつかる形でアラタを抱きしめた。その反動で3人はきりもみしながら落下し始める。
「トリーシャ!? 何をするんだ! 離せ! こんな状態で落下したらお前も!!」
「いやっ!! 今、私が手を離したらマスターは敵と一緒に死んじゃう!!」
トリーシャの意思は固く、アラタが振りほどこうとしても彼女はびくともしない。
「くっ!」
アラタは左腕で抑え込んでいたアサシンを払い飛ばし、エアリアルを全開にして落下速度の軽減を試みる。
だが、元々の落下速度が速い上に2人分の体重がかかっている事で思ったようにスピードが落ちない。
「く、くそ! 止まれーーーーー!!」
その時、地上に衝突する寸前にドラグが真下に滑り込み、2人をキャッチした。
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
多大な加重を身体全体で受け止めドラグの両足は地面へめり込み、苦悶の表情を浮かべている。
だが、彼は決して2人から手を離そうとはせずに、身体にかかる重力に屈しなかった。そして、無事に2人を受け止めきると思い切り息を吐きながらその場で膝をつく。
「ドラグ、大丈夫か!?」
「ええ、拙者は大丈夫ですぞ! 魔王殿とトリーシャは大丈夫ですかな?」
「ええ、ありがとうドラグ」
アラタは「ふぅー」と息を吐くとトリーシャを睨みつける。
「いったい何を考えているんだ、トリーシャ! 死ぬところだったんだぞ! 無茶しすぎだ!!」
トリーシャはそんな睨みに全く怯むことなく、涙を流しながらアラタに食ってかかる。
「そんなの、マスターが言える事じゃないでしょ!! さっきなんて敵と一緒に地面に激突していたら確実に死んでいたのよっ!?」
「俺の事はどうでもいいんだよ! あいつを! あのアサシンを殺せればそれでいいんだ!!」
「それで自分が死ぬ事になっても?」
セレーネがトリーシャに加勢する。いつも笑顔を絶やさない彼女が今や思いつめた表情をしてアラタをジッと見ていた。
「アラタちゃんはアンジェちゃんとセスちゃんを手にかけた人と刺し違うつもりなのでしょう? そんな事2人は絶対に望まないわ。今あなたがやっているのはあの子達を悲しませる事なのよ!?」
「そんな事……そんな事、言われなくても分かってるよ!! でも、あいつらは俺の目の前で殺されたんだぞ! 奴の卑劣な手にかかって! そんな2人の死を奴は笑ったんだ! 許せるわけないじゃないか!! 俺は死ぬ覚悟なんてとっくに出来てる! この命を引き換えにしてでも奴だけは絶対に俺の手で殺す!! そうしなけりゃ、気が狂いそうになるんだよ!!」
アラタは仲間の制止を振り切って立ち上がる。ドラグが慌ててアラタを取り押さえようとするが、強靭な竜人族の力でも今のアラタを止める事は出来なかった。
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