第190話 例えこの身が滅ぶとも②
「くっ、魔王殿お願いです、止まってください! でなければ本当に御身が!」
「ドラグ……アンジェとセスの亡骸は貧民街にいる……俺の代わりに2人を手厚く葬ってくれ……頼んだよ」
アラタはドラグの肩を軽く叩きながら最後の命令を彼に与えた。ドラグはその瞬間この少年の意思の強さを分かってしまった。
それ故、もうこれ以上彼を引き留める事が出来なかった。もし、自分がアラタと同じ立場であったのなら、きっと同じように身を滅ぼしてでも仲間の仇を取るために何でもすると思ったからだ。
ドラグはアラタを制止していた手を彼から離し、その目から一筋の涙を流す。
「ドラグ……ありがとう」
アラタはドラグの横を通り過ぎ、向こうに落下したアサシンに止めを刺すべく動き出す。
「アラタちゃん!!」
「マスター!!」
トリーシャとセレーネがアラタを呼び止める。
「マスター、死なないで。アンジェとセスもいなくなって、さらにマスターまでいなくなるなんて、そんなの嫌だよ!」
「アラタちゃん、死んでもいいなんて、そんな悲しい事言わないで……お願い、いなくならないで! 生きて……お願い!」
2人の懇願に対しアラタは一言「ごめん」とだけ言って歩き続ける。トリーシャとセレーネはアラタを止める事は不可能だと痛感し、その背中を見送る事しか出来なかった。
その時、彼らに向けて毒々しい紫色のナイフが飛び込んで来る。だが、それが直撃する寸前でそれら全ては巨大な白い爪に切り払われた。
「……そう来るだろうと思ってたよ。お前は、俺を苦しませるために俺の仲間を狙って来る! あまりに予想通りで反吐が出る!!」
「ちぃっ! クソが、邪魔しやがって!」
今度はトリーシャ達を狙ってきたアサシンに対し、アラタは殺意をさらに強くする。
「今度こそ終わらせるぞ、アサシン! もうこれ以上お前に、俺の仲間を……家族を、傷つけさせやしない!!」
アサシンに向かって余力を振り絞ってアラタは最後の突撃を行う。アサシンは武器である赤いダガーに魔力を込めて、接近する魔王に突き立てようとするが、アラタはそのダガーごと敵の右腕を竜爪で捉えた。
「掴まえたっ!! これでもう逃げられないな、アサシンっ!!」
「離せ! この死にぞこないがぁーーーーーー!! くかかかかかかっかかかかかかっかかかか!!」
アラタに捕縛されながらも、黒装束の男は怯む様子を見せるどころか彼を嘲笑い、その独特な笑い声が周囲に木霊する。
「終わりだよ! もうこれ以上、お前のその気色悪い笑い声を聞くのはうんざりだ!!」
そう言うと、アラタは左腕の握力を全開にし、その手の内にあった敵の右腕を握り潰した。
「ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああ!! 俺の! 俺の腕がああああああああああああああああああああああああ!!!」
「片腕が潰れたぐらいでぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、ぎゃあ、やかましいんだよ!! この腐れ外道が!! 今まで、お前に殺されてきた人達が受けた痛み、苦しみ、恐怖、絶望に比べれば、そんなのはかすり傷以下なんだよ!!」
「くそぉあああああああああああああああ!! まおうごときがああああああああああああああああ!!」
アサシンは左腕に魔力を集中し、紫色のダガーを出現させる。そして、それをアラタに向けて超至近距離から
しかし、それはアラタの身体に直撃しなかった。右腕を覆う巨大な白い爪がそれを防いだからである。
それを目の当たりにしたアサシンの顔が青ざめる。
「何だと!! バカなぁっ!!」
「これで終わりだ!! くたばれ! 外道!!!!」
アラタは右腕に発現させた竜爪で力の限りにアサシンを殴り吹き飛ばした。幾つもの瓦礫にぶつかり最後は城壁に衝突し、身体を痙攣させている。
ふとアサシンは身体の違和感を覚えた。先程アラタに握りつぶされた右腕の感覚が無いばかりか、身体の左右のバランスがおかしく左側に傾くのだ。
そして右腕の状態を見てみると、右腕の肘から先がなくなっていた。
「あ……ああああ! 俺の右腕……右腕がああああああああああ!!」
「それはこれの事か?」
声のする方向にアサシンが目を向けると、そこには5本の白い爪によって潰された自分の右前腕があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます