第167話 シェスタ東門の悪魔②

 青年はフード付きのロングコートのようなローブを身に纏い、ドクロのネックレスや指輪といった装飾品を身に着けている。外見的には10代後半といったところで中性的な顔立ちをしていた。

 

「お前は……!」


「今晩は、勇者スヴェン。こうやって顔を合わせるのは初めてだね。僕は十司祭のガミジンだ、短い付き合いになるけどよろしく」


「短い付き合い……だと?」


「そうだよ。だって君達はこれから僕のペットに殺されるんだからね。そこにいるイビルプラントは獣型と植物型の魔物を掛け合わせて造ったアンデッドでね、こいつ1体でここの騎士達を皆殺しに出来るぐらいには強いよ。さすがの君達でも勝てないんじゃないかな?」


 ガミジンはニヤニヤ笑いながら自慢のアンデッドの説明をスヴェン達に得意げにする。その目はアンデッド達とは別の意味で濁りきったものであった。

 その他人を馬鹿にした態度に憤るスヴェン達は、瞬時に攻撃態勢に移りその場で散開する。

 すると、先程まで彼らがいた地面から植物のツタが棘のように表出した。もし、そこに留まっていたなら、串刺しになっていただろう。


「へえ、よくかわしたじゃないか。間抜けな騎士団の連中は、今の攻撃で大体死んだんだけど。さすが勇者パーティーは質が違うね」


「真下から魔力の奔流が近づいているのが分かったからな! 色々と偉そうな事を言っているが不意打ちなんて随分姑息な手を使うじゃねえか!」


「勘違いしてもらっちゃ困るね。これはあくまでふるいにかけただけさ。僕と戦う資格があるかどうかの……ね!」


 周囲に散乱している瓦礫が吹き飛び、その下から多数のアンデッドが姿を現した。ファングウルフといった四足獣の魔物が大多数を占めているが、中にはアストライア騎士の成れの果てもいた。


「くそっ! まだ騎士のアンデッドも残ってたのかよ!」


「ああ、そいつらはついさっき補充したばかりの騎士だよ。そこのイビルプラントにあっさり倒された連中さ」


 騎士のアンデッド達をよく見ると四肢のいずれかが欠損していたりと身体の破損が目立つ者が多い。最初に襲撃してきた騎士のアンデッドは比較的損傷が少ない状態であったので、今回は急遽用意したという事が窺える。


「くそったれが! どこまでも死人に鞭打つような事をしやがって!」


 スヴェンが騎士のアンデッドに突撃する。その手に持つ大剣を横なぎに振い、複数体の上半身と下半身を分断する。


「燃えろっ! ファイアーボール!」


 すかさず炎の球体を幾つも出現させ、切り払った敵に撃ち込み焼き払っていく。物言わぬ死人は炎に包まれ、今度こそ活動を停止するのであった。

 その近くではコーデリアがレイピアに魔力を集中させ刀身に電撃を発生させていた。


「今楽にします。雷の闘技……サンダーウィップ!」


 コーデリアのレイピアから放たれた雷の鞭は、素早くかつ不規則な軌道を描きながらアンデッド化した騎士の頭部にある核を貫き破壊する。

 核を失ったアンデッドは活動を停止し、ちりとなって消えていく。それを最後まで見届ける余裕もなく、コーデリアは他の敵にも雷光の鞭を振い続ける。

 シャーリーは直接的な攻撃系の魔術は使えないが、味方に常時防御上昇効果のある魔術〝プロテクション〟を掛けてサポートを行い、ジャックは風を纏わせた蹴り技を叩き込み着実に敵の数を減らしていった。

 エルダーは先の戦いで魔力をかなり消耗していたため、重力系魔術の〝グラビティー〟を最小威力で放って敵の動きを鈍らせ、味方の支援に回っている。

 スヴェン達の連携の取れた戦いを瓦礫の上から見ていたガミジンは素直に感心していた。


「へぇ、凄いじゃないか。正直予想以上だよ。最初にここに逃げてきた、やたら派手なローブの騎士達とは全然違うねぇ」


「それは……オーガス達の事か?」


「ん? ああ……確かそんな名前だった気がするなぁ。すぐに殺したからよく覚えていないけど。もしかしてあいつがここの責任者だったのかい? だとしたら終わってるねー。僕から見ても、あいつは中々のクズだったよ」

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