第166話 シェスタ東門の悪魔①

「私達は元々その十司祭を倒すためにここに来たのです。それに、そのネクロマンサーを倒さなければこの状況は悪くなるばかりです。その者の居場所を教えていただけますね?」


 騎士たちはしばらく逡巡しゅんじゅんしながらも決意の固い勇者パーティーを見て重い口を開いた。


「あの十司祭は東門の魔物と一緒にいます。何故かは分かりませんが、ここに直接攻撃をしてくる事はなく東門に留まったままです」


「話してくれてありがとう。あなた方は引き続き、この監視塔の防衛をお願いします。私達は東門の十司祭を討ちに行きます。……みんな行きましょう」


 東門に向けてスヴェン達は移動を開始する。満身創痍の騎士達は、これから死地に向かう彼らを送り出す事しかできない状況に歯がゆさを感じながらも、待ち受ける戦いでの無事を祈るのであった。


「姫様、勇者一行殿……ご武運を」


 騎士団の監視塔から東門までは大した距離はなく、徒歩でも数分で到着する。そんな近距離にいるにも関わらず、十司祭のネクロマンサーはアストライア騎士団の拠点を自ら攻撃せず、召喚したアンデッド達にあえて攻撃させている。

 あまりにも不可解な行動ではあるが、スヴェン達はネクロマンサーのこの行動を聞いた時に、その意図を理解した。


「十司祭のネクロマンサー、奴はこの状況を楽しんでいる。本気を出せばわしらが戻ってくる前に監視塔を破壊し、騎士団も避難民も皆殺しにする事もできただろうからね」


「わざと手加減して、戦いを長引かせてる……ほんと悪趣味!」


 エルダーは状況を冷静に分析し、シャーリーは憤りを隠せないでいる。このパーティー内でも、落ち着いた性格の2人ではあるが今回ばかりは反応が対照的であった。

 怒るシャーリーに落ち着くようにコーデリアが諭す。


「確かにシャーリーの言うように、敵はこの戦いを遊びのように考えているようで大変不愉快ね。でも、そのおかげで現在最悪のケースは免れている。これは反撃のチャンスとも言えるわ」


「ああ、ここで俺達が奴を倒せば事態収拾の目処めどが立つ。他の場所でも魔王軍が立ちまわっている……やるぞ!!」


 スヴェンの決意に仲間達も呼応し魔力を高めていく――――戦闘準備は整った。勇者パーティーはシェスタ城塞都市東門に到着した。

 彼らの視線の先、東門の門扉の場所に巨大な魔物が佇み町の内外を行き来できないようにしている。

 その魔物はワニのような巨大な口を持ち、人間の大人ならば2、3人を一気に丸のみできるほどのサイズだ。目は濁った白色で生命力を感じさせないアンデッド特有のものだ。

 その一方で、獣を思わせる上半身からは植物の根っこのようなものが下方に伸び、全身から触手のような植物のツタが所狭しと伸び、町の外壁を伝い一体化していた。獣と植物が融合した異形の魔物がそこにいた。


「何だ……こいつは……! こんな魔物見た事ないぞ」


「あの魔物の目……アンデッドですよね? 生命力が失われているのに、どうして植物が生えているの?」


 ジャックとシャーリーは初めて見る異形の魔物の姿に本能的な恐怖を感じていた。それは他のメンバーも同様であり、口には出さずとも形容しがたい不快感がまとわりつく。

 異形の魔物を目の当たりにして凍りつく勇者パーティーに、男性の笑い声が聞こえてくる。


「くくくくく! どうだい、僕の造った合成魔獣キメラは? 美しいだろう?」


 スヴェン達が声の聞こえた方向に目を向けると、崩壊した建物の瓦礫に腰を下ろしている青年がいた。

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