第165話 シェスタ東側の状況

「コーデリア姫殿下、勇者殿! 無事でしたか! それに皆さんも……よかった」


「よくはねえよ、町がこんな状態にされたんだからな……それより、状況はどうなってる? ここに避難させた住民や敵の情報を教えてくれ」


「は、はい! 逃げてきた人々はこの監視塔に避難させています。敵はずっと散発的な攻撃を繰り返しており、先程が第3波の襲撃でした」


 報告を聞いたスヴェンは腑に落ちない表情だ。ここに立てこもった所で状況が好転するとは思えない。むしろシェスタ城塞都市内部では戦いが激化している。

 逃げてきた住民はここに留めておくより、町の東門から外に逃がしたほうが彼らにとって安全が確保できるし、騎士団側も自由に動けるようになるので互いに事態が好転するはずなのだ。

 

「どうして東門から住民を避難させないんだ? こんな所にいるよりは町の外に逃がした方がいいだろ」


 スヴェンの問いに対し騎士達の表情が暗くなる。


「現在シェスタの東門には強力な魔物がいて、そこを通る事ができないのです。我々も最初はそいつを倒そうと挑んだのですが、ことごとく返り討ちに遭い何人もの騎士が犠牲になりました。それ故、これ以上戦力が減るよりはここに籠城して救援を待つ他ないと……」


「それがオーガス殿の指示なのですね? 彼は今作戦室ですか?」


 コーデリアが騎士の1人に尋ねると、再び彼らは俯いてしまう。それに気づいたジャック達は何事かと思ったが、コーデリアはそれである程度状況を理解した。


「……彼はここにはいないのですね?」


「…………はい」


 騎士は消え入りそうな声でコーデリアに答えた。拳を固く握り肩がわなわなと震えている。


「オーガス隊長は状況を不利と見ると、側近の騎士数名と共に真っ先に東門から逃亡を図りました。その時、東門に先程話した強力な魔物が現れて最初の犠牲者になったのです。……情けない話です。自らの保身のために守るべき民を見捨てて真っ先に逃げ出し敵に討ち取られるなどと!」


「……そうでしたか……そのような過酷な状況の中、よく耐えてくれましたね。ありがとう」


「そんな……姫様、勿体ないお言葉です。我々は敵に対し無力で……情けない事です」


「そんな事はありません。迫りくる敵の群れに対し傷つくことを恐れず立ちふさがるあなた方は立派な騎士です。王族の1人として、とても誇りに思います」


 コーデリアのねぎらいの言葉に騎士たちは涙ぐむ。部隊長であるオーガスの逃亡と死、終わりの見えない敵の攻撃によって疲弊していた彼らの心に再び火が灯る。

 そして、コーデリアは彼らに重ねて情報提供を求めるのであった。


「現在の状況は概ね把握しました。では、後もう一つ確認したいのですが……こちらにいると報告のあった十司祭は今どこにいますか?」


 騎士たちがビクンと身を震わせる。彼らの顔はみるみる青ざめ、恐怖に彩られていくのが分かる。


「姫様、まさか十司祭と戦うおつもりですか? あれは化け物です、我々の手に負えるような相手ではありません。あの男は何十体ものアンデッドを召喚して、一瞬でこの周囲を地獄に変えました。あの魔力は……異常です!」


「アンデッドを召喚した男……か、ビンゴだな!」


「ああ、俺達が追っていた奴だ。マリク近くの平原で大量のゾンビもといアンデッドを放った上にビエナやベヒーモスまで連れてきたネクロマンサーの十司祭……間違いないな」


 騎士の報告から、ここにいる十司祭が自分達の標的であったネクロマンサーであると確信しジャックとスヴェンは意気込んでいた。

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