第164話 そして舞台はシェスタ東へ

 セレーネは背部からドラゴンテイルを発現させ、その狙いをブネの頭部に定めようとしていた。

 その時、震えるセレーネの手をそっとトリーシャの手が包み込み、顔を横に振った。


「セレーネ、行こう。気絶している人に止めを刺すなんて卑怯な事しちゃ駄目だよ、それが唯一の肉親なら尚更……。次に会う時までにもっと強くなって、そのときに思いっきりお仕置きすればいいのよ!」


「トリーシャちゃん……ありがとう」


 セレーネの身体から力が抜けると同時に涙がこぼれる。女性2人が涙を流す状況でドラグはどうしたらいいものか困惑してしまう。

 それに気が付いたトリーシャとセレーネは笑いながら涙を拭い去り、3人はアラタの後を追って町の北側へと向かうのであった。

 こうして、シェスタ城塞都市中央部における激戦は終わりを迎えたのである。そして、舞台は時間を少し戻し、町の東側に向かったスヴェン達に移る。




 アラタ達と別れたスヴェン達はシェスタ城塞都市の東側――アストライア王国騎士団監視塔へ向かっていた。

 コーデリアが携帯している小型の水晶型端末である連絡用スフィアの情報が本物であれば、あそこには確実に十司祭がいる。

 炎上する家屋を尻目にスヴェン達は全速で味方の拠点へと急ぐ。


「くそっ! こんな所まで火の手が回っていやがる!」

 

 アストライア騎士団の戦力が集中している監視塔周辺ならば安全だろうと高をくくっていた自分を呪いたくなる――スヴェンはそのような気持ちを抱きながらも、今は目的地に到着する事が先決だと頭を振って意識を変える。

 スヴェンのすぐ後ろを走るコーデリア、ジャック、シャーリー、エルダーも同じように考えていた。

 はやる気持ちを抑えながら5人は燃え盛る町を走る。町の景観を華やかにするため所々に設置されていた数々のオブジェは破壊され見るも無残な姿に変わり果てている。

 先日までは、アストライア王国の誇る美しい都市の中でも5本の指に入ると言われていたシェスタ城塞都市が、今では地獄のような状態へと変貌してしまったのだ。


「見えたぞ! 監視塔の門だ! ……ちょっと待て、何かいるぞ!」


 スヴェンパーティーの中で一番視力のいいジャックがいち早く異常事態を捉えた。監視塔周辺は既にアンデッドの集団に囲まれており、騎士団員が壁になり敵の侵入を防いでいたのである。


「気を付けろ! この魔物どもはどうもおかしい! 完全に止めを刺さなければいつまでも食らいついてくるぞ!」


「一体、いつまで続ければいいんだよ! 次から次へと! このままじゃあ!」


「弱音を吐くな! この中には非難してきた住人が大勢いるんだ! ここを突破されたら皆殺しだ! アストライア騎士団の誇りにかけて守り抜くぞ!」


 騎士団員が互いを鼓舞する中、アンデッド化したファングウルフの群れが一斉に彼らに襲い掛かろうとしていた。


「まずい、こんなの防ぎきれない!」


「ローブの防御を最大にして壁になれ!」


 監視塔の出入り口を死守する騎士団員に魔物の群れが食らいつこうとしたその時であった。


「やらせるかよっ!!」


 スヴェンが身の丈程もある大剣を一振りし複数の敵を両断する。他のアンデッド化した魔物もスヴェンパーティーの攻撃によって次々に討ち取られていく。

 勇者パーティーの到着により、監視塔を取り囲んでいた魔物の集団は瞬く間に駆逐されるのであった。

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