第159話 闇の剣、風の大鳥、瞬速の雷

 合流した3人の意識は各々最大の威力を持つ攻撃を連続して叩き込む最終工程に突入していた。

 生半可な攻撃ではドラゴンの高い防御力を越えるダメージを与えられないからである。

 手短に攻撃手順を確認し、実行に向けて三方に分かれる。ブネの正面に位置するのはセレーネだ。

 

「ルシール……決着をつけましょう。あなたが勝つか、私達が勝つか……勝負よ!!」


 セレーネは魔力を最大に高め始める。それと当時にブネの直上に巨大な魔法陣が展開される。その規模はセレーネが今まで使用してきたどの魔術よりも大規模なものであった。

 ブネは姉の小さい身体から放たれる強大な魔力にプレッシャーを感じていた。そして、その魔力に応じた攻撃に備え、自身も魔力を高め結晶の防御壁を身体の周囲に張り巡らせる。


「この魔術はまだ未完成で完全なコントロールが利かないから出来れば使いたくは無かったけれど、出し惜しみしていては勝てない事がよく分かったわ。私の全ての力を引き出してあなたを倒す!」


「セレーネ! 何をしようとわたくしには勝てないですわ。どのような竜の力を使おうともね」


「ルシール、私は〝魔術を使って〟と言ったのよ。竜の力とは言っていないわ」


「……闇の魔術でわたくしを倒そうというの? でしたらますます可能性が低いですわね。竜族の身体は魔術に対し高い耐性を持っているのですから」


 ブネは自らの竜としての強靭な肉体に絶対の自信を持っている。それに加えて、結晶術による防御力の向上で守りは鉄壁だ。

 魔術による攻撃は無効化ないしは半減できる。負ける要因は無い。

 そんなブネの心を見透かしたようにセレーネはこれから放つ魔術がどういったものなのか妹にする。


「これから放つ魔術はあなたも知っているものよルシール。覚えていない? 神魔戦争の時に魔王軍の闇魔術の使い手が数人がかりで使用していた古代魔術の事。当時のベルゼルファーの眷属をも打ち倒した魔術よ」


 それを耳にした瞬間、ブネは背筋が寒くなるのを感じた。もしもそれが想像通りのものであったなら、この絶対防御も危ういと考えられるからである。

 ならばやられる前に先制攻撃をして術の完成を妨害する方がいい。そう考えたブネはなりふり構わず30メートル超の身体を2メートル足らずの人間に突撃させる。


「セレーネェェェェェェェェ!!」


「もう遅いわ。既に術式は完成しているのだから。……混沌に在りし深淵の闇よ、我が願いに応じ古の力を示せ! シャドーセイバー!!」


 上空に展開された巨大な魔法陣が紫色に輝き、そこから無数の巨大な闇の光が地上に降り注ぐ。

 ブネはセレーネに辿り着く前に闇の光の包囲網の中に呑み込まれる。周囲に張っていた結晶の防御壁は一瞬で破壊され、自慢の竜の鱗も闇の光により切り刻まれ、体中から血しぶきが上がる。


「ぎゃああああああああああああああああああああ!!」


 絶叫と共に巨大な身体から噴出する血液が周囲に飛び散り、セレーネの身体にもその一部が降りかかる。

 それを目の当たりにし、セレーネは実行中の魔術に対する集中力が低下し、シャドーセイバーは急速に威力を弱め消滅してしまう。


「あ、ああ……私……私は……」


 身体をいましめ傷つけた魔術が消失し、逆上したブネはその元凶であるセレーネに殺意をむき出しにしてブレスを放とうとしていた。


「姉さん! よくもわたくしの身体を!! 死ねーーーーーーー!!」


「そうはさせん!!」


「やらせないわよ!!」


 ブレスの発射準備をするブネ目がけて、巨大な風の鳥と全身に雷光を纏ったドラグが猛スピードで突撃する。


「如何にドラゴンであってもこれならば! 電光石火でんこうせっか!!」


「風の闘技を受けてみなさい! 花鳥風月かちょうふうげつ!!」


 2人の必殺の同時攻撃はブネの腹部に直撃しその巨大な身体を後退させる。トリーシャの風の鎧とドラグの雷の鎧は勢いを落とすことなく、ブネの身体を駆け上がり顎下を打ち抜いた。

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