第157話 激突、黒竜の姉妹③

「そうよ、これは竜の尾……ドラゴンテイル。この姿になって尻尾がなくなってしまった事に驚いたけれど、今ではこうしてローブから発現させることが可能よ。だからドラゴン時代の得意技を今でも思う存分発揮できるのよ!」


 熱弁をふるいながらセレーネは勢い余って近くの大岩に尻尾を叩き付けてしまう。

 結果、岩は粉々に破壊され、それを目の当たりにしたブネ、トリーシャ、ドラグは背筋がゾッとするのであった。

 そして、トリーシャとドラグは同じ事を思っていた。


((うちにもいた……チートっぽい人! 闇魔術も使って竜の能力も健在なんて……間違いなくチートでしょ?))


 セレーネの実力を目の当たりにしたブネの表情から余裕の笑みは消え去り、真剣なものになる。

 同時に赤い結晶の騎士ナイトゴーレムは一瞬で消滅し、そのマナはブネの身体へと戻っていった。


「どうやら、あなた方を甘く見すぎていたようですわね。あなた方に敬意を表し、わたくし本来の姿で相手をさせていただきますわ」


 突如、ブネの身体から段違いの魔力のオーラが噴出し、彼女を覆い巨大なまゆのようになる。

 そして、周囲の炎に照らされて巨大な繭の中にいる者の影が見て取れる。その影は最初には人1人分の大きさであったが、急速に巨大になり今や30メートルを超える巨大生物の姿を映し出していた。

 そして、繭を突き破り町全体に響き渡る咆哮を上げながら巨大な黒いドラゴンが姿を現した。

 その圧倒的な存在に対しセレーネは「すごいすごい」と言いながら笑顔で拍手を送り、ドラグは驚く様子を見せながらも目は潤み感動している様子だ。

 トリーシャはそんな緊張感の無い2人の様子を見て、敵の姿に驚きながらもどこか冷静になっていた。


(セレーネはまるで大道芸を見ているような感覚だし、ドラグに至っては根っからのドラゴンマニアだからこの光景に心の底から感動しているみたいね……大丈夫かしら、私達……)


「トリーシャちゃん、ドラグちゃん! 離れて! ブレスが来るわ!!」


 竜化したブネの口内から光が漏れだす。それはアグノス山で何度か見た攻撃の前兆であり、直撃すれば一発で消滅されかねないものだ。

 セレーネの指示と敵の動きに反射的に散開する。その場から離れた瞬間、ブネの口から強烈な光を伴った熱線が放たれる。

 地面に放たれたその熱波と衝撃波によって周囲の瓦礫は吹き飛び、熱線が直撃した半径100メートルほどが焼け野原と化していた。

 その範囲の中にセレーネ、トリーシャ、ドラグの3人の姿があった。3人共顔はすすで黒く汚れており、ローブもダメージのため損傷が所々見られたが命に別状は無いようである。


「よくもまあ、こんな町中であんなものぶっ放してくれたわね、常識がないの!?」


「ごめんなさいね、妹は結構やりすぎる所があって、常識が通用しない所があるの」


 ドラグとトリーシャは、「それはあなたも大概よ」と思ったが、喉元まで出てきていたそれを呑み込んで気を取り直す。

 

「本当にしぶといですわね。そのゴキブリ並みの生命力……感嘆に値しますわ」


 巨大な黒竜から放たれる女性の声。人の姿の時とは身体のサイズが違うせいか、声のトーンが少し低くなっているように聞こえる。


「これならどうかしら?」


 黒竜の両翼で魔法陣が複数展開し、そこに無数の結晶の氷柱つららが発生する。

 セレーネに放った結晶の針よりも1つあたりのサイズが段違いであり、遠目に見ても人1人分の大きさがある。それが、10個以上同時に生成されているのだ。


「あれはさすがにヤバくありませんか?」


「いやいやいや、滅茶苦茶ヤバいでしょ!!」


「そうねぇ、あれはヤバいわねぇ。一発でも直撃すれば危険でしょうねー」


 余裕がなくなった3人は語彙力ごいりょくが低迷し、この危険な状況を「ヤバい」という言葉でしか表現できなかった。

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