第156話 激突、黒竜の姉妹②

「この姿になった時に私のドラゴンオーブは役目を果たして奇跡を起こす力を失ったわ。でも元々あれは私の魂そのもの。私がこの姿に転生した時に、ドラゴンオーブも姿を変えた。それがこのローブなのよ。そして、これは私の魔力を得ることでドラゴンの性質を発揮する事が分かった。だから、さっきはローブの防御力を最大にすることで竜のうろこの特徴を持つ力――ドラゴンスケイルを発動させたのよ。効果は今見た通りよ」


 セレーネが一通り説明を済ませると、ブネの表情から先程までの笑みが消え去る。自分だけが竜族特有の強力なアドバンテージを持っているという余裕が消失したからである。


「馬鹿馬鹿しいですわ! ローブが竜族の特性を再現できたとしても、既にあなたが人間になった以上、それは所詮まがい物! 本物ではありませんわ!」


「だったら……試してみる?」


 言うや否やセレーネは猛スピードでブネに接近する。今までの彼女の戦闘スタイルは魔術による後方支援であったので、ブネは意表を突かれる形となった。


「く、来るなッ! クリスタルスパイク!」


 再び美しく透明に輝く結晶の針をセレーネに打ち込む。セレーネが両腕でガードしながら魔力を上昇させると彼女の前方に魔力で形成された盾が出現し、そのことごとくを無効化していく。

 

「な、なんですって!?」


「ルシール!!」


 セレーネはそのまま勢いを殺すことなくブネに突っ込み、展開していた盾で彼女を吹き飛ばした。


「うきゃう!!」


 甲高い悲鳴を上げながら地面に打ちつけられるブネ。ゆっくりと上体を起こした彼女の顔は赤くなっていた。


「よくもわたくしに情けない声を上げさせましたわね!」


「え? 可愛くて良かったと思うけれど?」


「むぐぐぐぐぐぐぐぐぐ!!」


 セレーネの返答によって火に油が注がれ怒りはますます強くなっていく。今やブネの顔は髪と同じくらい赤く紅潮していた。


「何がそんなに気に食わなかったのかしら?」


(セレーネ、本当に悪気がないんだろうなー。だから余計に頭に来るんだろうな、妹さん)


 姉妹の一連のやり取りを見て、トリーシャとドラグはこの2人が今までどのような関わりをしてきたのかを何となく察した。恐らく、姉の天然ぶりに妹が翻弄ほんろうされてきたのだろう。

 そんな2人の背後で再び騎士ナイトゴーレムが動き出し、おもむろに剣を振り回し始める。

 ドラグはそれを戦斧で受け止め、その隙にトリーシャが敵の腹に思い切り風の一突きをお見舞いする。


「しつこい奴ね! ストラグル・エア!!」


 後方に吹き飛ぶゴーレムであったが、倒れないように足に踏ん張りを利かせてとどまり、破損した腹部も瞬く間に再生していく。


「やはり、供給される魔力を根元から絶たねばらちが明かないようだな」


「そうね、セレーネは……」


 トリーシャがセレーネの状況を見ると、黒竜の姉妹が接近戦をしている姿が確認できた。

 妹はマナの結晶で作った無数の刃物を撃ち出し、姉はドラゴンスケイルでそれらをしのいでいる。

 そんな中、セレーネの防戦一方かと思われる戦況に変化が生じようとしていた。


「このままじゃ、無駄に魔力と時間を浪費するだけだわ。ここで攻勢に出ないと!!」


 突如セレーネの臀部付近から1本の黒い触手の様なものが出現し、しなりながらブネ目がけて飛んでいく。

 触手の先端には小さな球体が付いており、さしずめ小型のハンマーだ。それが勢いよく横殴りするようにブネの身体に命中する。

 

「な、これは!」

 

 触手がぶつかる直前、その存在に気が付いたブネは瞬時に発生させた結晶の盾でそれをしのいでいた。

 触手は一瞬で宿主の元に戻り、そこには異様な姿があった。触手はセレーネの臀部と背中の間辺りから出現し、現在彼女の後方でゆらゆらと揺れているのだ。

 

「それはまさか……尻尾?」

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