第155話 激突、黒竜の姉妹①

「くっ! たかがルナールと竜人族相手に苦戦するなんて! はっ!?」


 歯がゆい空中戦を強いられている状況にブネは段々憤りが強くなっていた。そんな彼女に無数の黒球が撃ち込まれるが、掌に展開させた魔法陣でそれらを打ち消していく。

 黒球が飛んできた方に目を向けると、そこには黒髪に白磁の肌、黒いドレス型のローブに身を包んだ女性が立っていた。その目には自分と同じ琥珀こはく色の瞳が輝いている。


「なるほど、直接|わたくしを狙ってきましたのね」


「あのゴーレムはあなたの魔力供給が続く限りいくらでも再生する。……であれば本体を叩くのがセオリーでしょ?」


「最もらしい事を言いますが、それなら戦力的に2名でわたくしを狙いに来る方がいいのではありませんか? まさか、あなた1人でわたくしに勝てるとでもおもっているのですか? 甘く見られたものですわね」


 ブネは自身が侮辱されたと面白くないといった表情だ。十数メートルに間隔を保ちながら睨み合う黒竜の姉妹。


「あなたと1人で戦わせて欲しいと私が2人に頼んだの。私が現魔王軍に参加したのはルシール、あなたを自分の手で止めることが目的だったから」


「わたくしを止める? あなたが? 全盛期であればともかく、そんな貧弱な人間の娘の身体で何が出来ますの? 言っておきますが、わたくしのこの姿は結晶術の応用で身体のマナを変化させたもの……竜族としての力は問題なく扱えます、こんな風にね」


 ブネの周囲から魔力のオーラが溢れ出し、一瞬でセレーネを包み金縛りにする。それは、かつてアグノス山で魔王軍全員の動きを封じたものだ。


「ぐっ、くっ!」


「どうです、分かったでしょう? あなたとわたくしの格の違いが。このまま一思いに終わらせて差し上げます。今度こそ……さようなら」


 ブネが頭上に両手を掲げると、上空に結晶でできた無数の針状の物質が生成されていく。その尖った先端の先には動きを封じられたセレーネがいた。

 ブネが両腕を振り下ろすと同時に結晶の針たちがセレーネに向かって射出される。

 騎士ゴーレムを地面に叩き落としたトリーシャとドラグが気付いた時には、とても間に合う距離ではなかった。


「セレーネ、逃げて!」


「セレーネ殿!」


 2人の悲痛な叫びが響く中、無情にも多数の結晶の凶器がセレーネに直撃していく。


「ああっ! そんな! …………ってあれ?」


 そんな時、トリーシャが異変に気付く。先程から結晶の針はセレーネに命中しているのだが、彼女は依然としてその場に立ったままなのだ。

 もし、もろにあの攻撃を受けていれば彼女の細い身体はミンチのようにバラバラに吹き飛んでいるはずなのに。

 その事に気付いたのはブネも同様であり、一斉攻撃によって巻き上がった粉塵が晴れるのを険しい顔で見つめている。

 その時、粉塵が一斉に吹き飛ばされる。その中から現れたのは、ほぼ無傷状態のセレーネであった。


「なん……ですって!」


 さすがのブネもセレーネがほとんどダメージを負っていない事実に驚きを隠せない。しかも彼女はブネによる金縛り攻撃をもいつの間にか無効化していたのだ。


「――ふぅ、今のは少し危なかったわねー」


 驚きで静まり返った戦場に気の抜けるようなおっとりした声が響く。本人は「危なかった」と言ってはいるが、その声からは緊迫感はあまり感じられない。


「いったいどうやって、今の攻撃から身を守ったんですの?」


「あら、おかしなことをいうわね? 竜族のうろこが耐衝撃、対魔術に優れた防御力を持っているは当然でしょう?」


「なっ? もうあなたはドラゴンじゃない! 竜の鱗はもう失われているでしょ? 何を言っている?」


 セレーネの意味不明な発言にブネの苛立ちはつのるばかりだが、当の本人は屈託のない笑顔を見せていた。

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