第154話 結晶術師ブネ②

「やっぱり、最初は様子見……というよりこっちの反応を見ながら楽しんでいたというのが本当のところかしら、ルシール?」


「まぁ、そんなところですわね。実際には、あまり面白い反応は得られませんでしたけど。ですので、遊びの時間は終了ですわ。私に与えられた神性魔術――結晶術を骨の髄まで堪能し、そして死になさいな」


 死刑宣告と同時にゴーレムが立ち上がり、ドラグ目がけて突っ込んで来る。予想以上のスピードに回避が間に合わない。


「なれば正面から受けて立つのみ!」


 猛スピードで突撃する5メートル級の体躯を受け止める2メートルの竜人族の戦士。自分の倍以上の身体から繰り出される圧倒的なパワーを何とか押しとどめる。


「ドラグちゃんっ!」


「ぐっ! なんのこれしき!!」


 ドラグは一瞬力を緩めて敵が前のめりになったところを巴投げで自分の後方に投げ飛ばし、難を逃れる。

 竜人族らしからぬトリッキーな動きにブネは少々面食らった顔になるのであった。騎士ナイトゴーレムは空中で体勢を立て直し地面に着地するが、その瞬間をトリーシャとセレーネは物がさない。


「皆、力を貸して! シャドーサーヴァント!」


 騎士ゴーレムの真下に展開された魔法陣から、闇の使徒たちが次々と現れ敵の足を掴み動きを封じる。

 そこにトリーシャが空中浮遊術であるエアリアルで空から急襲する。落下速度と自身の魔力を合わせた彼女の得意技だ。槍の穂先に高密度の風の刃が形作られていく。


「これでも食らえ! 月閃!!」


 重く鋭い風の斬撃が赤いゴーレムの頭部に命中し、その頭を吹き飛ばす。一瞬動きが止まったゴーレムであったが、右手が赤く光るとそこから巨大な両刃の剣を生成する。

 首を失ったまま再起動したゴーレムは出現させた剣で足元にいるシャドーサーヴァントを薙ぎ払い消滅させるが、セレーネの魔力供給によって再び闇の使者たちは復活する。

 シャドーサーヴァントと同様に主からの魔力供給を得た赤いゴーレムの首から上も瞬く間に再生されていく。状況が振り出しに戻る中、赤い騎士ゴーレムを取り囲むトリーシャ、ドラグ、シャドーサーヴァント。

 互いが睨みを利かせる中、先に動いたのはブネのゴーレムの方であった。重量感たっぷりのその体躯から想像できないスピードで剣を突きだし突っ込んで来る。

 その攻撃を迎え撃つ魔王軍。トリーシャとドラグは遠距離攻撃で迎撃するがウインドカッターも雷刃もゴーレムの盾により打ち消されてしまう。

 シャドーサーヴァントは敵の左右に分かれて互いの手からひものようなものを伸ばして連結させ、勢いよく走って来る敵の足元で互いにひもを引っ張り、転ばせようとしていた。


「何なんですの? あのしょうもない攻撃は? 子供の悪戯のつもりなのかしら?」


 シャドーサーヴァントの稚拙ちせつな罠にかかるまいと、思い切りジャンプする赤いゴーレム。真下にいる敵に狙いを定めて落下しようとしていた時だった。


「ほんと稚拙よね~、こんな単純な手に引っかかるなんて」


「空中ならば、あの突進攻撃は出来ないようだな。では、ここで決めさせてもらおうか!」


 いつの間にか空中に移動していた2人に気付き、ブネは顔をしかめる。さらにトリーシャに馬鹿にされたことで、笑顔の下に怒り模様が浮かんでいた。


「空中だから何だというの? 騎士ゴーレム、やっておしまいなさい!」


 ブネの命令を受け、身体の上半身をひねって周囲に回転切りをするが大ぶりの攻撃であったため回避するのに苦労はしなかった。


「遅い! 空中戦ならこっちに分があるわ!」


 トリーシャは、空中を素早い動きで移動しながら騎士ゴーレムに槍の斬撃を次々浴びせていく。


「一撃じゃ大した事は無くても、連続で受ければそれなりにダメージになるはず!」


 一方、ドラグはあえて敵に真正面から挑み巨大な剣を2本の戦斧でしのいでいた。その隙を突いてトリーシャがゴーレムにダメージを与えていく。

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