第153話 結晶術師ブネ①

 トリーシャ、ドラグ、セレーネの3人は赤い結晶の騎士ナイトゴーレムから一旦距離を取って各々武器を構える。

 ブネはゴーレムの後方に移動し腕組みをしており、高みの見物をするつもりらしい。薄ら笑いをしながらこちらを見ているのを確認し、トリーシャは不快感を覚える。

 

「何あれ? 自分は戦いに参加しないつもり?」


「戦力的にあのゴーレムだけで十分だと考えているのでしょうね」


「以前、アグノス山で戦った時には動きを封じられて一方的にやられそうになりましたからな。それで我々は脅威にはなり得ないと考えているのでしょうな」


「あの子の悪い癖よ、戦う相手を軽んじる傾向があるわ。でも、そこに付け入る隙がある。エトワールでの訓練で私達がどれだけ成長したのか見せてあげましょう!」


「ええ!」


「うむ、そうですな!」


 トリーシャとドラグは左右に分かれてゴーレムに接近する。ゴーレムから離れた位置にいるセレーネは魔法陣を展開させ、黒い球体を複数作り出していた。


「まずはこれで牽制けんせいするわ! シャドーボール!」


 黒い球体を一気にゴーレム目がけて撃ち出す。ゴーレムは左手に装備した盾を構えて防御の体勢を取った。

 シャドーボールは盾に衝突し呆気なく消滅してしまうが、盾は傷1つ付かずその存在感を見せつけている。


(何という防御力! あの盾に真正面から立ち向かうのは得策ではない。パワーで対抗するよりもスピードによるかく乱が有効か……)


「トリーシャ!!」


「分かってる! 私が先行する、ドラグは隙を見て大きいのをお見舞いして!」


御意ぎょい!!」


 敵の能力を瞬時に分析し、攻撃手段を組み立てる2人。トリーシャは持ち前のスピードでゴーレムの後方に移動する。


「取った! エアプレッシャー!!」


 槍の穂先に高密度の空気のハンマーを作り出し、敵の背中にぶち当てる。その勢いでゴーレムは前方に吹き飛ばされ、そこには2本の戦斧に魔力を集中し万全の攻撃態勢を整えているドラグが待ち構えていた。


「さすがトリーシャ! 理想的な状況だ! ……行くぞ! 雷戦斧らいせんぷ!!」


 自分に向かって飛び込んで来るゴーレム目がけて、勢いよく突撃し雷を纏った2本の戦斧を勢いよく振り下ろす。

 衝突時のパワーを合わせつつ、2つの得物はゴーレムの両肩に食い込み、ドラグはそこから魔力と膂力りょりょくを最大に高め雷鳴のようなとどろきを発しながら戦斧をさらに進ませてゴーレムの両腕を根元から断ち切った。

 体幹たいかんから切り離された両腕は重い音を立てながら地面に落ちると、数秒後には崩れ落ちてマナの粒子となって消滅した。

 残った本体も後ずさりしながら、片膝をついて力なくうなだれている様子を見せている。


「ここまでは上手くいったか……いや、上手くいきすぎている感があるな」


「そうね、マスター風に言えば〝フラグ〟のような展開かしら?」


 ゴーレムを圧倒したトリーシャとドラグは、この状況を楽観視してはいなかった。この手応えの無さに何処か違和感を覚えていたからである。

 それに加えてブネは表情を全く変えてはいない。それどころかこの状況を楽しんでいるような余裕すら感じるのだ。


「成程、以前戦った時よりは幾らか成長しているようですわね。正直、もう少し苦戦するかと思いましたが、ここまで簡単に私のゴーレムがやられるとは思いもしませんでした。……おまけに、この子を倒しても安堵するどころか警戒を緩めないなんて、大したものですわ」


 ブネは落ち着き払った様子で、ゴーレムの背中に手を触れる。すると、両腕を失っていた赤い騎士から再び強力な魔力が放たれ、その腕も瞬時に再生される。

 魔王軍3名の表情が一層険しくなる。こういう展開はある程度予想はしていたが、想像以上に敵ゴーレムの回復が早かったのだ。

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