第152話 神性魔術

 セレーネがポツリとこぼした〝神性魔術しんせいまじゅつ〟という言葉にトリーシャが反応する。


「神性魔術って確か神のみが使える魔術ってやつでしょ? 奇跡のような強力な魔術である一方で、神以外の者が使用したら術者に何かしらの災いが降りかかるヤバいやつじゃなかったっけ?」


「その通りよトリーシャちゃん。本来、神性魔術はその強力さゆえに使用者に何かしらの反動が出る諸刃もろはの剣のようなもの。でも例外がある……それは神の眷属けんぞくとなった者に関しては何のペナルティもなく、その力の一部を自由に使えるというものなのよ。つまり今回の神の眷属――十司祭はベルゼルファーからそれぞれ異なる神性魔術を継承して自由に扱えるの。だから、彼らはとてつもない力を持っている」


 セレーネが語った真実にトリーシャは愕然がくぜんとする。神性魔術はそれだけ強力な代物であり、通常の魔術とは桁違いの力を持っているからである。

 話を聞いていたブネはセレーネを嘲笑ちょうしょうしながら、さらに残酷な現実を語る。


「ボケた頭の割にはよく覚えているようですわね。でも、十司祭の強さはそれだけではないわ。十司祭は元々神性魔術なしでも強力な魔力を持った者達。本来の能力だけであなた方を圧倒できる力を持っている。そこに神性魔術というチート能力が加わっていますのよ。あなた方がどうこうしたところでどうにもならないのです。―—お分かり?」


「な……それが事実だとしたら……今の我々では……」


 ドラグはここまで言いながらも最後の「勝てない」という言葉を必死に飲み込む。もし、その言葉を発してしまったら現在必死につなぎとめている戦意を無くしてしまうかもしれないと思ったからだ。

 青い顔をしているドラグとトリーシャを一瞬見ながら、セレーネはブネを正面に見据える。そして言うか言うまいか悩んでいた事実をあえて口に出す。


「……この話にはまだ続きがあるわ。現在十司祭が使用している神性魔術は、まだ完全な状態ではないわ。力の本来の主であるベルゼルファーが復活の兆しを見せれば見せる程、その神性魔術も強力になるの。だから、ベルゼルファーが復活してしまえば、それに伴い十司祭もさらに強くなる。……だから、彼らを倒すのなら今がベストなのよ」


「……嘘でしょ? それじゃあ、状況が悪くなるほどこいつらは強くなるの? そんな事になったら本当に手が付けられなくなるじゃない!」


「その通りよ。だから神魔戦争の終盤、ベルゼルファーの顕現体けんげんたいが現れた時にはその眷属達も一気に強くなって、最後の戦いに赴いた魔王軍は皆、敵と相打ちになったのよ。グランも含めてね」


 ドラグとトリーシャはますます顔が青ざめ、その様子を見ていたブネはくすくす笑っていた。


「あらあら、本当に酷い女ですわね、あなた。そんな残酷な真実を話したものだから、2人とも絶望してしまったのではなくて?」


 笑みを浮かべるブネとは逆にセレーネの表情は実に真剣であった。


「そうね、確かに残酷な話だわ。でもね、だからと言って私達は真実から目を背けてはならないの。見ないふりをしたり、逃げたりすることは簡単よ。でもそんなことをしていたら、遠くない未来この世界は破壊神やその信徒達の手で地獄と化してしまう。止められるのは目を背けずに立ち向かえる勇気を持つ者だけ。私は、今の魔王軍の皆にその勇気があると思っているわ」


「「!!」」


 絶望感に押し潰されそうになっていた2人であったが、セレーネに鼓舞された事で凍り付いていた闘志に再び火がともる。

 敵は強大、味方は少なく戦力としては非常に心もとない。だが、心に芽生えた強い使命感が2人の魂を熱くさせる。

 

「……やってやろうじゃない! 敵がチート能力を使うのなら、こっちはチームで叩き潰す!」


「我々は1人ではない! セレーネ殿、やりましょう! 我々3人が力を合わせれば、例え神性魔術の使い手が相手だろうと勝てます!!」


「……2人とも……ええ! やりましょう!!」

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