第151話 再開、黒竜の姉妹②

「久しぶりって……私達はあなたとは初対面よ。誰かと勘違いしているんじゃないの?」


「そうですな。拙者もあなたと会うのは初めてですが」


 トリーシャとドラグの反応に満足したような笑みを見せる赤髪の女性。その琥珀こはく色の瞳で、ふとセレーネを見ると途端にいぶかしむ視線を送る。

 その視線に気づいてか、セレーネは赤髪の女性に近づいていき2人は手を伸ばせば触れ合う位置まで接近する。


「久しぶりねルシール、魔力を感じた時にもしかしたらと思ったけど、やっぱりあなただったのね」


「なっ! ねえさ…………いえ、セレーネ! 生きていたの? でもあの状況で生き残る事は不可能なはず。それに、その姿は……?」


「そうねぇ、ざっくり説明するとドラゴンオーブの力で人間に生まれ変わったのよ。どうかしら?」


 セレーネは本当にざっくり説明すると、妹の前でゆっくりターンし外見の感想を求めるのであった。そのマイペースな様に、ブネは一瞬呆気にとられた表情になるが、すぐに我に返る。


「ざっくりしすぎよ! それにあなたの外見なんてわたくしにはどうでもいい! 生きていたというのなら今度こそ確実に止めを刺すだけよ!」


 感情的になった事で先ほどまでの丁寧なお嬢様口調は見る影もなくなっていた。どうやらこっちの喋り方が素らしい。

 セレーネを睨むその目には憎しみが込められている。妹から向けられる視線にセレーネは一瞬悲しそうな表情を見せるが、一旦目を閉じてゆっくりと開くと、戦闘時に見せる勇敢な戦士の目をしていた。


「……分かったわ。どうしても戦いが避けられないというのなら戦いましょう。あなたは私が止める!」


「ふん! いい加減身内感覚でいるのはやめていただけるかしら? もう1000年前に私はあなたと縁を切ったのだから」


 互いに魔力を高める黒竜の姉妹。ぶつかり合う魔力の波長が周囲に拡散し、半壊していた建物に止めを刺す。

 さらに建物の炎も消失していく。2人の魔力が周囲のマナに干渉し、自然現象にすら影響を与えていた。

 トリーシャとドラグはセレーネの本気の魔力がブネにも引けを取らない事に驚くが、当の本人達は睨み合うのみで、そこにはどの様な感情を抱いているのか窺い知れない。


「セレーネ……すごい魔力だわ。これなら十司祭相手にも通用するんじゃ?」


「うむ……まさか、これほどの力を扱えるようになっていたとは驚きだ」


 先に動いたのはセレーネだった。前面に魔法陣を展開し、そこから黒い槍を射出する。


「ルシール、これを受けなさい! シャドーランス!」


 ブネに向けて放たれたシャドーランスは、彼女の身体目がけて真っすぐに向かって行く。ブネに逃げようとする素振りはなく、左手を前方にかざして魔法陣を展開した。

 闇の力によって構成された槍は、その魔法陣にぶつかると間もなくその場で霧散する。そしてブネが展開した魔法陣はさらに巨大化し、そこから大型の盾が出現しさらに盾を把持する腕が続いて出てくる。


「な、なんだあれは?」


 冷静沈着なドラグですら、そいつが出現した際には驚きを隠せないでいた。魔法陣から腕が胴体が、そしてやがて全身が出現し最終的には全長5メートル以上の赤色に輝くゴーレムが出現したのである。


「どう? 美しいでしょう? 私の〝結晶術けっしょうじゅつ〟で作り出した騎士ナイトのゴーレムは」


「結晶術? そんなの初めて聞いたわ」


 トリーシャもドラグと同じく、強い魔力を放つ巨大なゴーレムに驚くばかりだ。だがセレーネだけは冷静な表情をしている。


「結晶術……確か1000年前の戦争の時にも同じ〝神性魔術しんせいまじゅつ〟を使っている人がいたわね」

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