第150話 再開、黒竜の姉妹①

 トリーシャはセレーネの身体を手でバンバン叩くが、彼女を抱きしめる事に夢中になっているお姉さんはそれに気づかず依然として強烈なハグを続けている。

 当然トリーシャの顔はますますセレーネの豊かな胸に沈み込んでいき、最初は抵抗運動をしていた手も今は力なくうなだれていた。


「セレーネ殿、それではトリーシャが死んでしまいます! 抱擁を解いてください!」


「嫌よ! トリーシャちゃんが許してくれるまでやめないわ!」


「どのみちそれではトリーシャは会話できませんよ! 早く離してあげて!!」


 数秒後、トリーシャの状況に気が付いたセレーネは抱擁を解き、意識を取り戻した彼女の前で土下座をしていた。


「本当に申し訳ありませんでした!!」


「大丈夫よセレーネ、私は別に気にしていないから」


「……本当?」


 セレーネは半べそをかいて正座のままトリーシャを見上げている。黒髪美人のお姉さんが泣きながら上目遣いをした時の視覚的威力は凄まじく、同性であるトリーシャも思わずドキッとしてしまう。


(うぐっ! なんて扇情的せんじょうてきな光景なの!? おまけにさっき、おっぱいめちゃめちゃ柔らかかったし……息苦しいのに心地よさで思わず昇天するところだったわ……おっぱい大好きのマスターだったら確実に天国行きだったわね)


 その頃、見つめ合う2人の向こう側ではドラグがたった1人で、アンデッドの大群と戦っていた。


「2人とも要件が済んだのなら加勢を! さすがにこの人数を1人で相手取るのは骨が折れます!!」


「「あっ! ごめんね!」」


 こうして戦線に復帰したトリーシャ、セレーネと共にドラグは教会周辺の敵を全滅させる事に成功した。


「はぁっ……はぁっ……ふぅー、何とか殲滅できましたな」


 呼吸を整えながら、ドラグは討ちもらしがないか注意深く周囲を警戒する。トリーシャとセレーネも呼吸を整え、魔力感知にも敵の反応が無い事を確認し安堵していた。

 だが、それはほんの少しの間だけであり、強大な魔力反応が近づいてくるのを3人とも感知する。

 教会の北側、敵が入り込んできた方角から、それは近づいてくる。接近するスピードからして、それはどうやら歩いてこっちに向かっているようだ。


「なんという魔力だ……これがまさか十司祭のものなのか?」


「たぶん十中八九そうでしょうね。……やっぱりここに来てたのね」


「………………」


 接近する魔力の持ち主に対して、緊張感が増すドラグとトリーシャ。一方、セレーネは黙っていたが、何か思いつめたような表情をしていた。

 

「…………来る!」


 町の北側の燃え盛る瓦礫の中に、1人の人間の姿が見えてくる。魔力の強さから、どのような化け物が姿を現すのかと思っていたルナールと竜人族の若者は、その姿を目の当たりにして拍子抜けしてしまう。

 そこには露出度の高い黒いドレスに身を包んだ赤い髪の女がいたのだ。控えめに言っても美人であり、プロポーションも抜群で豊かな双丘はドレスから今にもこぼれ落ちそうであった。

 だが、このような凄惨な現場において場違いともいえるその姿は、逆に異質な雰囲気を放つ。

 そしてなによりも、その女性から確かに放出される魔力は背筋が寒くなるほどに強力であり、只者ではない事を証明していた。

 その赤髪の女性から発せられるプレッシャーによって、トリーシャ達はその場に釘付けなってしまう。

 そして、真っすぐに3人を見据えながら歩くペースを変えることなく10メートル程度離れた位置で立ち止まった。


「お久しぶりですわね、魔王軍の方々。と言ってもほとんどのメンバーはいないようですが、元気そうで何よりです。あの生意気な魔王も元気なのかしら?」


 丁寧な言葉遣い、かつ色気のある声色で自然に彼女は話しかけてくる。その際見せた笑顔も至極自然体であり、まるでご近所さんへの挨拶のようであった。

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