第146話 バルザスVSアロケル③
既に老兵に追撃せんと接近していたアロケルの表情は更なる歓喜に満ち溢れる。自分の打撃に耐え抜いただけでなく、まだ戦闘能力を失わない魔闘士に心躍らせていた。
「まだまだ倒れてくれるなよ! もっと俺を楽しませてくれ!!」
「ぬぅっ! 全く、なんて無茶を言う奴だ! 自己中心的にも程があるぞ!!」
「すまんな! 俺のこの性格は死んでも治らないと一族全員のお墨付きだ!!」
止むことのない打撃の嵐にバルザスは翻弄され、防御の上から確実にダメージを与えられていく。敵の攻撃によってローブは砕け散っていき、皮膚は裂かれ血しぶきが舞い散る。
本来なら〝鉄無双〟は短時間能力を向上させる技であるが、アロケルはそれを長時間持続している。
この事実は、魔力操作が苦手なはずの獣王族の弱点を克服している証明であり、ロックはただ驚愕するのみである。
だが戦闘経験が豊富な老兵はあくまで冷静であった。防御に使用している剣の刀身に映る彼の目は、常に反撃の機会をうかがいギラギラしている。
(耐えろ、耐えろ、今は耐え続けろ! 必ずチャンスは来る! そこを狙え!!)
自身の闘志の火を絶やさないように、己を鼓舞する老兵士。思い返せば、今まで自分の戦いの大部分は耐える内容が多かったと気付かされる。
であれば、この程度の攻撃に耐え続ける事など苦ではないと思えてくる。――そして、ついにその時は訪れる。
「ちぃっ、ここが限界か……!」
アロケルの怒涛の攻撃の頻度が急に少なくなり、彼の身を包んでいた魔力の層も消えかかっていた。
さすがの十司祭の武人であっても魔力は無限ではない。老兵士が待ち望んでいた反撃のチャンスが回ってきたのだ。
「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
なりを潜め始めたアロケルの魔力とは対照的に、バルザスが見せるそれは爆発的に高まり、獣王族の猛者を圧倒する。
「な、なんだこれは! まだこんな力を残していたのか!」
「私にはまだやらなければならない事がある! それを成し遂げるまでは……こんなところで終わるわけにはいかんのだ!!」
バルザスの身体全体を高密度の魔力が包み込む。その魔力は激しい渦のように彼の周囲を目まぐるしく動き回り、加速していく。
回転速度の上昇に伴い、大気中のマナが渦の中に呑み込まれ、彼の魔力の一部になってさらに渦が巨大化する。
バルザスは巨大化する渦を魔力コントロールによって範囲を縮小させ、そのエネルギーを回転速度に変換する。アロケルやロックはこれまで見た事のない魔力の動きから目が離せないでいた。
魔力操作による攻撃方法は3つある。1つ目は、展開した魔法陣に充填する事で〝魔術〟として発動する方法。
2つ目は、魔法陣を介さずに身体の一部分に魔力を集中させ攻撃する〝技〟として発動する方法。
3つ目は、武器の核となる魔石に魔力を集中させ、そのエネルギーを増幅させることで武器による強力な魔術ないし技として発動する方法である。
そのため、身体から放出した魔力がこのような現象を起こす事はまれなのだ。あえて、この現象に一番近いものを挙げるとすれば、2つ目の身体攻撃による技が当てはまる。
だが、今バルザスが行っているのはそれだけに
魔力操作による3つの攻撃パターンを同時に展開しているのだ。
「す、すげぇ…こんな事が可能なのか……魔術と技の同時展開……」
目の前で行われている魔力操作を目の当たりにして、ロックはもちろん敵であるアロケルも〝魔力〟の持つ無限の可能性に
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