第147話 バルザスVSアロケル④
そして、魔力の渦の回転が最高潮に達した瞬間にバルザスの目が見開かれる。足底部に展開した魔法陣が輝き
その速度は高速移動術である〝
「ぐあっ!? な、なんだとっ!?」
その言葉が放たれた直後、バルザスが展開させていた魔力が刀身部に一気に集約され、爆発的に高まると同時に斬撃として解放される。
「
それは一瞬だった。まばたきよりも短い一瞬に放たれた強大な魔力を伴う一太刀は抜刀術のような軌道でアロケルのローブを身体を精神さえも切り裂き、
身体から激しい血しぶきを上げながら地面に打ちつけられたその身体は力なく横たわり、つい先ほどまで戦意に満ちていたその目は白目を剥き、意識がない事を証明している。
「…………勝った!!」
バルザスの静かながらも力強い一言が静まり返った空間に響く。ロックは一瞬の間に起きた逆転劇に、ただただ驚く事しかできなかった。
「バルザス……今の一撃は?」
「うん? ああ……今の技は〝絶影〟といってな。ざっくり説明すると瞬影と同時に刀身に込めた魔力を一気に敵に叩き込む技だ。魔力のコントロールに難があるが、発動すれば相手より先手を取りつつ防御困難の一撃をお見舞いできる」
その大技が叩き込まれた獣王族の猛者は、今も身体を時折痙攣させており、まだ息があることを伝えている。
「バルザス、あいつはまだ息がある。どうするんだ、
「……そうしなければ戦いは終わらん」
「……………………」
「ロック……何か言いたい事があるんじゃないのか? だったら、遠慮せずに言うといい」
バルザスは戦いで身体のあちこちを負傷していたが、その表情はいつものように穏やかだった。その、優しい雰囲気に触れてロックは心の中に押し止めていた思いが一気に溢れ出てくるような感覚に襲われる。
「バルザス……俺……子供の頃に父親といたところを魔物の集団に襲われてさ。その時俺は魔物に食われる父親を恐怖で震えながら見ている事しかできなかったんだ。そして、俺も襲われそうになった時に助けてくれたのが、ガイ師匠だった。俺は弱い自分が情けなくて悔しくて、強くなりたいと思って師匠に弟子入りした。そして必死で修業して強くなった……そう思ってた……けど!! そんなことはなかった!! 俺は……弱い!! 自分よりも強い奴と戦って……恐怖で身体が動かなくなった!! あの時と同じだったんだよ、何も変わっちゃいなかったんだ!! それどころか、敵に命乞いしてまで生き残ろうとした臆病者だ。……俺は自分が恥ずかしい! それなのに、俺は今あいつを殺して欲しくないと思ってる!」
ロックの目から大量の涙がこぼれ落ち、涙と一緒に感情が溢れてくる。
「それは、どうしてかね」
「俺……あいつに勝ちたい! 今度こそ、恐怖にのまれずに最後まで自分の力で戦い抜いて……勝ちたいんだ!! 俺の〝獅子王武神流〟で!」
バルザスは何も言わず、ただ穏やかでありながらも真剣な表情でロックを見ていた。そしてロックも同様に真剣な眼差しを老兵士に向けていた。そんな時に、2人の近くで何かが動く様子が視界の片隅に入る。
「ぐ……くぉ……俺としたことが、まさかたった一撃で意識を飛ばされるとは……」
アロケルが意識を取り戻し立ち上がろうとしていた。だが、身体に負ったダメージが大きく上半身を起こすのが精一杯のようであった。
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