第145話 バルザスVSアロケル②

 アロケルは全身に魔力をまとわせ、勢いよくバルザスの元に飛び込む。その突進速度は先の戦いでロックに放った時よりも向上しており、さすがのバルザスも回避できずに剣で体当たりを防御する。


「ぐうっ! なんと!」


 力比べでは分が悪いと判断したバルザスは、剣に角度をつけて敵の攻撃を受け流すことで回避に切り替え難を逃れた。

 

「今のを受け流すか! 面白い、ならばこれはどうする!?」


 アロケルは今度は両腕に魔力を集中させ、身体の重心を落とす姿勢を取る。ロックはこの構えに見覚えがあった。

 先程自分の左腕に深刻なダメージを与えた一撃だ。但し、今度は片腕ではなく両腕に魔力を集中するという違いがある。


「バルザス、気を付けろ! 獅子王武神流の技が来る!!」


 ロックの忠告に応じてバルザスは敵から距離を取り、魔力を高めながら次の攻撃への警戒を最大にする。

 

「行くぞ! 老兵!!」


 雄叫びと共にアロケルがバルザスに接近する。相変わらずの高速移動ではあったが、バルザス自身も高速移動は得意であり、何より獣王族の武人のスピードに身体が慣れてきた事もあり、心に余裕が生まれる。


(来るか! そろそろこちらも仕掛ける!!)


「獅子王武神流! 破砕連撃掌はさいれんげきしょう!!」


 互いの間合いに入ったところで先手を取ったのはアロケルの方であった。一撃で大きな岩を粉々に破壊する拳を連続で繰り出してくる。

 彼の高い打撃力を警戒していたバルザスは、最初から力比べをする気は毛頭なく、先程見せた剣による回避術を再び披露する。

 アロケルの強力な拳一発一発を刀身に角度をつけてらしていく。アロケルの圧倒的な力に対しバルザスは華麗な技で対抗していた。

 

「なんだと!? 全部受け流して!?」


 バルザスの剣さばきに驚くアロケル。格闘家として生きてきた彼にとって、武器は無用の長物であり、特に興味は抱いてはいなかったが、今目の前で起きている老剣士の剣さばきに関してはただ見惚みとれてしまう。

 その一瞬の隙をバルザスは見逃さなかった。アロケルの重い拳をいなした直後に、そのまま流れるような動きで、剣のつかの端を思い切り敵の眉間みけんに打ちつける。


「あがっ!!」


 その衝撃でアロケルは脳震盪のうしんとうを起こし、一瞬動きが止まる。


(ここだ! ここで一気に決める!!)


 バルザスは斬撃を幾重にも敵に放ち、強靭な獣王族の身体を食い破っていく。


「もう一撃っ!!」


 バルザスが止めと言わんばかりに、頭部に斬撃を放つが、アロケルはそれを真剣白刃取りで受け止めていた。


「ぐっ! くっ! もう少し回復が遅かったら危なかったな」


「……大した回復速度だ。さすがは獣王族の猛者と言ったところか」


 白刃取りの姿勢のまま、アロケルは刃の向こう側にいる老人を睨み、老人もまた獅子顔の男を睨み返す。


(あれだけの斬撃を浴びせたというのに、致命的なダメージになっていないか……戦いが長引けばこちらに不利になる。この男を倒すには意識をも刈り取る強力な攻撃が必要……ならば、あれしかない!)


「何か考え事か? 大方、どうすれば俺を倒せるのか考えていたのだろう? だが、無駄だ! 獅子王武神流には己を鉄壁の鎧とするこの技がある…………鉄無双!!」


 アロケルの身体全体を魔力の層が包み込み、身体能力と防御力が飛躍的に向上する。同じ技を使うロックは、この技による能力向上の恩恵を知っているため、この状況に青ざめる。


「ただでさえ強いのに、さらに能力が上乗せされたら――!」


 アロケルは両手で抑え込んでいたバルザスの刀身をバルザスごと、腰の回転を利用し勢いをつけて自身の後方に投げ飛ばす。

 無茶な体勢からの反撃に反応が遅れるが、バルザスは何とか空中で体勢を立て直す――が、その動作が終了する時にはアロケルが怒涛の勢いで眼前に迫っていた。

 咄嗟に前面に防御態勢を敷くが、それを読んでいた獅子の猛者は老兵士の脇腹にボディブローを叩き込む。


「ごふっ!!」


 鉄無双により強化された打撃は、スピードも威力も先程とは段違いであり、魔力が伝達されたローブの防御力をものともしない。

 バルザスはそのまま真横に勢いよく吹き飛ばされるが、地面にぶつかる瞬間に受け身を取ってすぐに体勢を立て直す。

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