第139話 戦火の中の合流

「くそっ! 貧民街に敵がどんどん入っていきやがる! このままじゃ――」


「勇者が泣き言を言うもんじゃないよ、口を動かす前に手を動かさないと」


 エルダーはグラビティでアンデッド数体を地面にめり込ませ戦闘不能にする。だが、高度な魔術の連続使用は確実に身体の疲労を誘い、その威力や効果範囲は低下していた。

 重力プレスの範囲からギリギリ逃れたアンデッドが、術者を目指して突っ込んで来る。

 魔術を使用中のエルダーは不意を突かれて動けない。他の者も各々アンデッドを相手取っているため救援に向かえない。


「エルダー、逃げてっ!!」


 コーデリアの叫びが響く中、彼らの頭上から何者かが落下し、同時にエルダーに襲い掛かろうとしていたアンデッドを頭から真っ二つにした。

 その者の姿を視界に収めるとスヴェンは信じられないものを見たという表情になる。その者はかつてアンデッド化した魔物1匹と死闘を繰り広げた、魔力を満足に使えないはずの少年であった。

 魔王としてこの世界に召喚されたものの、世間一般の魔王のイメージから最もかけ離れた性格の持ち主がそこに立っていた。


「大丈夫ですか? 確か……エルダーさん、でしたっけ?」


「う……うん、ありがとう魔王殿、助かったよ」


 突然の思いがけない人物の登場にさすがのエルダーも驚きを隠せない。以前出会った時には、魔物1匹を倒すのに重傷を負った少年が、不意を突いたとはいえ元騎士団員のアンデッドを一撃で切り捨てたのだ。

 驚くスヴェン達に、アンデッドの集団が迫る。


「フレイムジェイル!」


 アンデッド達の集団を、炎で作られた棒がいくつも連なり閉じ込める。それはまさに、囚人を閉じ込める鉄格子のようであった。

 セスがかざした掌をぐっと握ると、鉄格子を構成する炎が一気に燃え盛り、内部に閉じ込めた者達を容赦なく焼き尽くしていく。

 鉄格子から逃れた者達も空から襲い掛かる魔王軍の面々に次々と討ち取られ、この周辺のアンデッドは残らず駆逐された。


「ったく、おせーぞ、たかが坑道を通るのにどんだけ時間がかかってたんだ!」


 最初はアラタに礼を言おうと思っていたスヴェンだが、その言葉が喉元まで来た瞬間にそれを呑み込み、こんな言葉が出てきてしまう。

 それを見たコーデリア達は「素直じゃねー」と半ば呆れてしまった。


「うるせーよ、こっちはロックワームの群れに襲われて大変だったんだよ。それに、ノームとの契約は後回しにして急いで駆け付けたんだぞ! つーか、敵をこんなとこにまで来させるなんて……この、へっぽこ勇者!!」


「へ、へっぽこだと!?」


 互いに睨み、ののしり合う魔王と勇者。それを見る、それぞれのパーティー一行は苦笑いしている。

 コーデリアはスヴェンの表情に活気が戻った事を喜んでいた。そして、彼に元気を取り戻させた魔王の存在に一目置くのである。


(スヴェンをこんな風に明るくさせる事は私にはできない。けれど、魔王さんはそれを普通にやってしまう。やっぱり、彼の存在がスヴェンにいい影響を与えてるみたいね)


 ひとしきり睨み合う中、魔王に疑問をぶつける勇者。


「そういや、お前さっき魔力を使っていただろ? 魔力は使えないんじゃなかったのか?」


「……身体に負担があまり出ない範囲で最大出力をキープして使ってるんだよ。最近できるようになった」


 その魔王の発言に驚くスヴェン一行。ここでアンジェがこの話題を終了させる。


「アラタ様、この件はこれで終わりにしましょう。今は緊急事態です。すぐに動き出さなければ」


「ああ、そうだな、ごめん」


(アラタ様は気付いていないけど、魔力を正確に一定値でキープできるようコントロールするのは非常に難しい技術。才能のある者でも実現するには年単位の時間がかかる。それをたった数日でやってしまったアラタ様は規格外の魔力コントロールの素質を持っている。……今の会話で彼らもそれに気づいたようね)


 アラタ達はシェスタ城塞都市の西門は既に開き、南門の開門にロック達が向かっている事をスヴェン達に告げ、この後どう動くべきか考える。

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