第138話 再びシェスタ城塞都市へ

 一方、シェスタ城塞都市の西門に向かって近づく人影が複数あった。満月が雲のベールから逃れて大地を照らし出し、人影の姿が露わになる。

 そこには、魔王軍一行の姿があった。ジルグ鉱山跡から全速力で戻ってきたのだ。


「どうする? 西門は確か何年も閉じっぱなしで門番もいなくなってる。城壁を越えていくか?」


 ロックが町への侵入方法を提案する。普段はともかく、このような緊急事態であるならば、城壁を飛び越えて行くのは問題ないだろうという考えだ。

 町の設備を傷つけず自分達の負担も少ない良案ではあったが、今後の事も考えセスが代替案を提示する。


「普段ならその方がいいが、今回は西門を破壊して中に入ろう」


「なんでだよ?」


「この町は巨大な城壁に囲まれていて、住民は門からしか外に逃れる術はない。ここの門を解放しておけば、西側の住民が町の外に逃げやすくなる」


「! なるほど、そういうことか! なら一気にぶっ壊すか!」


「ロック、ちょっと待った。今門の向こう側に人がいないか確認するから。…………大丈夫だ、誰もいない。いけるぞ!」


 アラタが魔眼で周囲のマナの存在を感知し、門の向こう側を透視する。魔眼は例え夜でも昼間のように周囲を見通す事ができる上に、使用用途も幅広く今回のようにある程度なら透視する事も可能だ。

 魔眼習得後、この透視能力を使ってよからぬことを企んだ魔王であったが、彼のおこないに、いち早く気が付いた魔王軍の女性陣は「そんなに見たければ正々堂々と来なさい」と言い放ち、自分の行為を恥じた魔王は透視能力に関しては、ちゃんとした場面でのみ使おうと誓うのであった。


「よっしゃー! ドラグの旦那、やっちまおうぜ!」


「おうっ! ロック、同時に決めるぞ!」


 ロックとドラグが先行し、閉ざされた門に攻撃を放つ。魔王軍内でもトップクラスの打撃力を誇る2名の同時攻撃に、物言わぬ扉はたまらず口を開くのであった。

 かくして、魔王軍は問題なくシェスタ城塞都市に入る事が出来た。町の中には何かが焦げた臭いが広がっており、それが建物のものだけではない事を魔王軍に告げる。


「町に入れたのはいいとして、これからどこに向かえばいいのかしら?」


「とにかく町の中心に向かおう。火の手は正門がある北側から上がっているみたいだし、創生教の教会周辺なら状況が分かるはず」


「そうですね、それと同時に南門にも誰か開門に向かわせましょう。そうすれば、貧民街の人達が町の外に脱出しやすくなります」


「俺が行ってくるぜ。門の内側からなら開閉用の装置があるしな!」


「ならば私も同行しよう。この状況では1人で動くのは危険だ」


 こうして南門にはバルザスとロックが向かい、その他は町の中心にある創生教の教会を目指して移動を開始した。

 貧民街は、北の正門から離れているため、まだアンデッドの襲撃はなかったが、住民は状況が分からずパニックになっていた。

 アラタ達は人込みを避けるために、建物の屋根の上を走っていく。その際、貧民街の住民に西門は既に開いている事、これから南門も開くことを伝え、そこから外に逃げるように促していく。

 逃げ惑う住人とは逆方向を進み続けるアラタ達の目に、アンデッドの集団と戦う者達の姿が入ってきた――スヴェン達だ。

 彼らは自分達を壁にして、貧民街への敵の侵入を妨げている。そのおかげで、貧民街の人々は何も分からないまま、突然現れたアンデッドに襲われずに済んだのだ。

 それでも多勢に無勢であり、広大な貧民街への侵入経路を全て守る事は出来ず、少しずつアンデッドと火事の侵攻を許してしまう。

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