第136話 勇者と姫と仲間達と①
スヴェン達は、賊侵入の第一報が入ると即座に監視塔を出て正門側に向かっていた。このタイミングでシェスタ城塞都市を襲う者については既に察しがついていた。
「やっぱり来たか! のこのこ俺達の前に現れた事を後悔させてやる」
「スヴェン、まずは敵を迎撃しつつ民を避難させる事が最優先よ! その方が炎を使うあなたも戦いやすくなるでしょ?」
「……分かってるよ! ともかく敵をくい止める役は俺とジャックで引き受ける! お前らは逃げ遅れた奴らを頼むぞ」
「「「了解!」」」
闘士をみなぎらせるスヴェンの手綱を引くコーデリア。血の気の多い勇者をリードするのはいつもの事なので慣れたものである。
息の合った2人の姿を後ろから見つつ、スヴェンパーティーの3人は「早く結婚しろ」と各々心の中で思うのであった。
スヴェン達が正門付近に辿り着くと、そこは既に地獄と化していた。アンデッド化した大勢のアストライアの騎士達がシェスタの民を、建物を破壊して回っているのである。
優雅さを誇っていた美しい建物の数々が、崩れ落ち燃えている。そして、崩壊した建物の下敷きになった住民の多くは、助けを求めながらも炎に焼かれ断末魔の悲鳴を上げている。
建物の崩落に巻き込まれなかった人々も、迫りくるアンデッドや炎から逃げようとするが、日々鍛錬を積んでいた元騎士の手から逃れることは難しく1人また1人と切り捨てられていった。
「……酷い! こんなことって……!」
「なんてこった……」
この地獄絵図を前にシャーリーとジャックはこれ以上何も言うことが出来なかった。この悲惨な光景を表現する
「2人とも呆けてる場合じゃないよ、こうしてる間にも人が殺されている! これ以上あの連中に、自国の民を殺させちゃあならない! 今止められるのはワシらだけだ!」
「わ、分かった! すまん、エルダー!」
味方に喝を入れ、鼓舞するエルダー。いつも
パーティー全員がそんな彼に対する認識を改めていた矢先、スヴェン達の接近を感知したアンデッド達が一斉に勇者一行に視線を向ける。
その虚ろな目は既に本来の機能を残しているのかは分からない。だが、死人達はスヴェン達に反応し、最初はゆっくりと、そして次第に歩みを速めながら接近してくる。
「ジャック、行くぞ! コーディ達は逃げ遅れた連中を頼む!」
「分かったわ!」
迫りくる死人の群れに突撃するスヴェンとジャック。その戦いの光景はコーデリアにとって、一番実現してほしくないものだった。
ほんの昨日まではアストライア王国の平和の為に共に戦う仲間同士であったはずが、現在は殺し合う状態になっている。
この受け入れがたい現実を前に、コーデリアはこの状況を作った元凶に対する憎しみを募らせていた。これは破神教十司祭の一人であるネクロマンサー、彼の仕業である事は間違いない。
マリクでの戦いの際にも感じた「死者を操り戦わせるような卑劣な輩を絶対にのさばらせておくわけにはいかない」という意思に強烈な殺意が備わっていく。
「2人も用意はいいかね? いくよ……グラビティー!」
悲惨な現実を前に苦しむコーデリアの耳にエルダーの声が入り、間もなく彼の重力系魔術が放たれる。
ゾンビベヒーモスとの戦いの際には、絶大な加重を負荷し敵の動きを封じた魔術であったが、今回はその逆に重力を打ち消し一定範囲を無重力の状態に変化させる。
コーデリアとシャーリーは、エアリアルで移動し重力から解放された建物をどかして下敷きになっていた住民を助け出していく。
「くっ……2人ともそんなに長時間は持たないよ。もっと急いで」
「最初から全速です! エルダー、頑張ってください! 後でチョコ買ってあげますから」
「……おじさんは甘い物が苦手だよ。なんか、こう塩辛い物がいい!」
「血圧が上がるんで、それは却下です!」
「酷い事を言うお嬢さんだね」
冗談を言い合う2人が作り出す和やかな雰囲気は、絶望に押し潰されそうな住民達に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます