第133話 チームワーク

 その後は他のメンバーも戦いに参加し、セレーネの戦い方を参考に刺突攻撃をロックワームの口部に叩き込み倒す戦法を取っていった。

 ペンダントで敵の接近を感知し、アラタの魔眼で具体的な出現場所と距離を確認、敵との距離を確保した後に出現と同時に攻撃を叩き込む。


「敵が近づいてる! 上から1、右から2、下から1! 一旦後退して攻撃準備! 5……4……3……2……1……来る!」


 アラタの指示で体勢を整えるトリーシャ、ロック、アンジェ、ドラグの4人。秒読みカウントが0になった瞬間、彼が指示した場所から計4体のロックワームが出現する。

 

「! 来た! これならどう!? ストラグル・エア!」


「一気に潰すぜ! 破砕掌!」


「出現場所さえわかれば簡単ですね……アイシクルスパイク!」


「見えた! 雷刃!」


 4名から放たれる攻撃は、岩壁から出現したばかりのロックワームの口部に直撃しただけでなく、その奥の体内にまで侵攻し内部から岩の魔物を破壊していく。

 この段階になると指示役のアラタも指示出しが板についてきており、その様子を見ていたセスは感心すると同時に自分のポジションがこの後ちゃんと残っているのだろうかと少しだけ不安になるのであった。


「すげーじゃんアラタ、敵の出てくる場所やタイミングがばっちりだぜ」


「ええ、まさかこんなに楽に戦えるなんて思っていなかったわ。マスター、ありがとう」


「へへっ、なんのなんの!」


 仲間からの賛辞に、何だかむずがゆい感覚を覚える魔王であったが、自分が戦いの場で役に立っている事で少しずつ自信を持てるようになってきていた。

 今までは後ろから皆の戦いを見てきた彼ではあったが、今その経験が生かされている事をバルザスは見抜いていた。

 アラタは仲間の戦いをずっと見てきた事で、彼らの戦い方のクセを正確に把握しており、状況が変化する中でどのような指示をすれば味方が動きやすいのかを判断できるようになっていたのである。

 セスと同様に、戦場で指示を出す指揮官としての素養がいつの間にか備わっていたのだ。これはバルザスにとって嬉しい誤算であった。

 チームを動かす際に指揮系統が複数あると味方が混乱してしまう恐れがあるが、アラタとセスは既にツーカーの仲であり、2人とも仲間の戦闘方法への理解度も高く、認識の違いにより混乱に陥る可能性は低い。

 セスは後方支援が得意であり主に後方から指示を出してはいるが、混戦ともなるとその指示が前衛のチームに伝わりにくい場合もある。

 そうなると、前衛への指揮は破綻し味方がバラバラになるが、ここに前衛をまとめる指揮官がいれば、その問題が解決するのだ。

 アラタの師匠たるバルザスは、彼に剣術の他接近戦のイロハを教えている最中だ。アラタ自身も接近戦を得意としており、本格的に戦場に立てるようになれば前衛になるのは間違いない。

 そうすると前衛と後衛それぞれに指揮官を有する事になり、アラタとセスを中核としてチームワークがより強固なものになる。

 その状況を想像すると、バルザスは興奮で背中がゾクゾクするのであった。だが、同時に寂しい感覚も押し寄せてくる。

 自分が思い描いた魔王軍が実際に機能する時には恐らく――。


「あれ? なんか今まで見た事のないものも混じってるな」


 ロックワームから取り出された鉱物は様々で、ミスリル以外にも金色であったり虹色であったり、アンジェ達にも判別できないものが混じっていたが、とりあえずインベントリバッグの中に片っ端から入れていく。

 こうして、アラタ達は順調に坑道内を進んでいき、思ったよりもずいぶん楽にジルグ鉱山跡の正面出入り口側に到着する事が出来た。


「ここまで順調に行けるとは思いませんでしたね」


「ああ、おまけに貴重な鉱物も大量に手に入ったし、鉱山さまさまだな」


 セスとアラタは思いがけなく手に入った戦利品を思い出しながら、顔が綻ぶのを我慢する事ができなかった。


「2人とも喜ぶのはまだ早いですよ。ここから騎士団に見つからずにノームの祠に行かなければならないのですから。気を引き締めてください」


「「がってん!」」


 アンジェが注意を促すとアラタとセスは息の合った反応で返す。そして、細心の注意を払いながら外を覗くと、そこにはいるはずの騎士達が1人もいないのであった。

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