第132話 魔導金属ミスリル

「…………俺達は一体何を見せられていたんだ……こんな滅茶苦茶な戦い方ってある?」


 敵の体内にシャドーサーヴァントをぶち込み、体内から食い破る――エイリアンの誕生シーンを彷彿とさせる戦い方はショッキングであった。


「ええ!? だって、派手に戦うと坑道が崩れて危険だから、なるべくロックワームのみに攻撃が集中するようにっていう作戦だったでしょう? だから、この手段を取ったのだけれど……駄目だった?」


(それであんな戦い方をしたのか……大人しそうな顔してなんて過激な……さすが元ドラゴン)


 セレーネが悲しそうな視線をアラタに送ると、ドラグが彼女を支援する。


「魔王殿、セレーネ殿は現状で最良な手段で敵を壊滅させたのですぞ。そんな言い方は少々酷いではないでしょうか?」


「いやさ、ドラグ。俺は別に非難しているんじゃなくて、こんな誰も想像できないような戦い方があったんだって驚いているだけだよ。……それに、そういうお前だって口をあんぐり開けて驚いてたじゃんか! 俺聞いたぞ、お前が『マジか』ってつぶやくの!」


「いや……それは…………記憶にございません!」


「政治家の逃げ口上!? ずりーぞ!」


 アラタとドラグが口論する中、周囲は「はいはい、行きますよ」と言って先を進む。その時、ロックワームの死骸の周囲にいくつか鉱物が散乱しているのが目に入る。

 バルザスはそのうちの1つを拾って、まじまじと眺めると目を見開き身体を震わせ始めた。


「バルザス様、どうしました? どこかご気分でも優れないのですか?」


 アンジェが心配になり、彼に声をかけると老紳士は真剣な表情で拾った鉱物を見せる。


「アンジェ、これを見てくれ! 私の目に狂いがなければこれは……」


「失礼します……驚きました。これは、ミスリルですね」


「え? ミスリル!?」


 皆が続々と集まり、その鉱物に注目する。少し青みを帯びた銀色の物質が鈍い輝きを放ち、アンジェが魔力を流し込むと淡い青色の光を放出し周囲を照らし出す。

 

「間違いない。ミスリルは魔力伝導率が非常に高く、魔力に反応し強い光を放つ特性があるが、これはその中でも中々良質な物のようだ」


「おいおいそれじゃあ、もしかしてここに散らばってるの全部ミスリルか? だとしたらえらい事だぞ」


 ロックとドラグがロックワームの死骸の中から大量の鉱物をかき集めると、両腕で持ちきれない程の量が確保できた。

 その鉱物を確認すると、予想通り全てがミスリルを含むものであった。全員のテンションが上がる中、アラタが質問をする。


「あのさ、ミスリルってそんなに珍しいの?」


 彼もRPGなどでミスリルという金属が非常にレアなものである事は知ってはいたが、ソルシエルに存在する金属の中でどの程度希少な部類に入るのかよく分からなかったのである。

 ただ、皆の反応を見る限りかなり期待できると推測はできるのだが……。最初にこの鉱物をミスリルと判定したアンジェが、心なしか目を輝かせながら説明を開始した。


「アラタ様、ミスリルは非常に希少な金属で、それこそ強力な武器の制作には必要不可欠なものなのです。ですが、その希少性ゆえ市場では出回ることはほとんどありませんし、仮に出たとしたら秒で売買されるほどです。ちなみに超高額です」


「……めっちゃ凄いじゃん」


「めっちゃすっごいです。おまけにこれだけの量でしたら、鉱物から相当量のミスリルが抽出できます。剣の作成に使用したとしても5本程度は作れるでしょう」


「強力な剣が5本も!? 夢が広がるなぁー」


 アラタの表情も皆と同じようにパッと輝き、強くてかっこいい5本の剣が頭上をクルクル回る妄想が広がっていく。


「ですから、皆これだけテンションが上がっているのです。私達が現在使用している武器にはミスリルのような高品質の金属は使用されていませんから。もし、これで武器を作成したらかなりの戦力アップが期待できますよ」


「まじか! じゃあ、後でこれを使って武器を作ってもらおうよ!」


 だが、ここでバルザスから悲しいお知らせが入る。


「魔王様、実はミスリルは鉱物から抽出したり、武器に加工したりするには一流の鍛冶職人の力がいるのです。並大抵の職人では鉱物から金属として抽出する事すらできません」


「ええっ!? そんなぁー。それじゃあ、どこに行ったらその一流の鍛冶職人がいるの?」


「まずは、各国の王都にいますな。それぞれの騎士団お抱えの鍛冶職人がいますから。あと他に考えられるのは、ギルド協会が作ったどこかの町でしょうな。鍛冶職人のギルドもありますから、そこにならもしかしたら……」


「そっか、残念だけどすぐには無理か」


「ええ、それにミスリルで作成する武器ともなればそれに相応しい高品質の魔石も必要になります。その確保の問題もありますから……」


 この話で、どうして強力な武器はあそこまで金額が高いのか理解できたアラタであった。

 希少な金属と魔石の存在、それを作成するには一流の鍛冶職人でなければならないという条件付きなのだ。

 恐らく、材料を揃えても作成してもらうには金額も相当な額が必要になるのであろうと、万年金欠の魔王は察する。

 とりあえずミスリルはインベントリバッグに収納し、再び目的地を目指し再始動する魔王軍一行であった。

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