第131話 セレーネ初陣!
セレーネ自身も魔王軍に参加して初めての戦闘であるためか、気合いがみなぎっていた。皆の前に立ち魔力を高め始め、彼女の足元に巨大な魔法陣が出現する。
「我と契約し闇の眷属よ、その力を示し我が障害を取り除かん……シャドーサーヴァント!」
詠唱終了と同時に、
それはまるで人の影が形そのままに起き上がったもののようであり、「オォォォォー」とうめき声のような音を出しながら顕現した。
そのような黒い人型の出現時の演出は、人の根源的な恐怖心を刺激するものではあったが、このシャドーサーヴァントが恐ろしいと思えるのはここまでであった。
もしかしたら、セレーネ以外の闇魔術の使い手によるものであったら、この恐ろしさを保ったままの魔術なのかもしれないが、彼女の使役するシャドーサーヴァントは何とも言えない連中であった。
呼び出された直後、整列し彼女に対し敬礼を放つ。それはまるで軍の兵隊さながらである。
この様子を見てアラタは、エトワールでの訓練最終日の出来事を思い出す。それはセレーネが、呼び出したシャドーサーヴァント達に激を飛ばすというものであった。
訓練が終了し、今後は実戦での活動になるという彼女の言葉に対し、人型の影達の足元はガクガク震えていた。
それを見たセレーネは、訓練の成果を出せれば恐れるものはないと影達を励まし、彼らは両手を挙げながら何だか盛り上がっている様子であったのだ。
実戦を前にした新兵のような影達を見て、外見とは裏腹な人間臭さを感じ、感情移入する魔王なのであった。
そして現在―—初陣を前にして何体かの影は緊張のためか足が震え、それを止めるように自身の手で足を叩いている。
そんな新兵の姿を見てアラタは「頑張れ!」と心の中で応援していた。そんな心の声が通じたのか彼らの震えは止み、セレーネの命令に従い訓練同様に3人1組の小隊を組み敵に突撃してゆく。
シャドーサーヴァントは闇属性魔術の下級に位置するためか、戦い方は非常にシンプルである。彼ら自身は魔術などは使えず肉弾戦のみで戦うのだ。
1体のロックワームに対し、3人で接近戦を仕掛ける影達ではあったが、その岩の如き外皮を貫通しダメージを負わせることは難しく、敵の進行を止めるのみであった。
だが、その隙にセレーネは自分の周囲にいくつもの黒い球を出現させていた。
シャドーボール――闇属性の下級魔術であり、威力はそれほど高いものではない。
しかし、それは1つのみの場合であり、現在彼女の周囲にはシャドーボールが4個程浮遊している。
連続で攻撃を受ければロックワームにもダメージを与えられるかもしれない。そうアラタが思っていると、彼女は何を思ったのか4つの球体を別々の方向に射出したのである。
「皆! 準備はいい? シャドーボール!」
4つの黒球は、素早い動きで4体のロックワームの口部に直撃する。その衝撃で、岩の魔物の牙は粉々に砕かれ、口がぽっかりと開いた状態になる。
それを確認すると、シャドーサーヴァント達は露出したロックワームの口部から内部に侵入するのであった。
1体のロックワームに対し影が3人内部に入ると、魔物はビクンと身体を振るわせ始める。
痙攣が強くなりロックワームは逃走しようとするが、崩壊した牙では固い岩盤に穴を開けることも出来ず、ゴチッと鈍い音を立てて壁に激突する。
次の瞬間、
ロックワームの1体がこのような末路を辿ると、2体目、3体目、4体目と最初の個体と同じように内部から破裂し息絶える。
そこに残ったのは、意気揚々と佇む影の兵隊達であった。
残る数体のロックワームが、彼らを攻撃しようとするが、そこに再びセレーネのシャドーボールによる援護が入り、ウネウネ動く牙を破壊していく。
すると先程と同様に、影達は魔物の体内に入り内部からその身体を破壊して回るのであった。
同時にセレーネは、シャドーランスによる攻撃でロックワームを直接仕留めていき、戦況はセレーネ側の一方的なものになっていた。
――数分後、坑道内には20体以上のロックワームの死骸が原型を留めない状態で所せましと転がっており、アラタの魔眼にもペンダントにも新しい敵の反応は見えなくなった。
敵の出現が終了した事をセレーネに告げると、彼女はシャドーサーヴァント達を帰還させる。
「みんなー、ありがとう。またよろしくねー」
セレーネが手を振ると、影達も手を力いっぱい振りながら闇の中に戻っていくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます