第130話 坑道にフラグ立つ
1歩また1歩と歩みを進めるたびに、いつ敵が襲ってくるのかと神経がすり減らされる。だが、この最初の1本道ではロックワームは出現せずにやり過ごす事ができた。
その次もまたその次の道でも敵は現れない。ペンダントは輝く機会を見せないまま、正面出入り口までの全行程の半分以上が終わり、後半戦に入る。
「なんというか、全然出てこないな。もしかして、ここの鉱山跡には奴らはもういないんじゃないの?」
「むぅ……、確かにここまで姿を現さないとなるとロックの言う通りかもしれませんな」
「あら、残念ねぇ……やる気満々で来たのに……」
セレーネは残念そうであったが、ロック、ドラグ、セレーネの会話を聞いていたアラタは嫌な予感を感じていた。
「あのねぇ、君達。そんな物騒な事を言ったら
「例えばどんな事になるのかしら?」
「それは、つまり――」
セレーネの問いにアラタが答えようとしていたところ、彼の視線の先――壁の向こうから、魔力の塊が接近しているのが確認できた。
最初は1つであったその反応は、みるみる数を増やしていき、少なくとも10以上の個体がいる。それと同時に3つのペンダントも発光し鉱物を含んだであろう敵の接近を告げる。
「来るぞ! 数は10以上、前方の壁から一気に出てくる!」
「「了解!」」
アラタが全員に敵の出現位置を告げると、魔王軍は前進を止め戦闘態勢を整える。微かだが、坑道内に振動が走る。
いくつかの輝煌石は亀裂が入ったことで光を失い、坑道内を照らす明かりが少なくなる。
「出てくるぞ!」
次の瞬間、これから魔王軍が進もうとしていた道の壁という壁から何体ものロックワームが姿を現した。
その全高は人間の成人男性を丸のみにできるほど大きく、そのままの太さで奥行き5メートル以上の体長がある。
身体の先頭である顔に当たる部分のほとんどは、鋭い牙が無数に散りばめられた口になっており、固い岩盤を砕いて前に進んでいく事を可能にしている。
今も獲物を噛み砕きたいと言わんばかりに、ウネウネ動いている。もし、このまま進んでいたら、この奇襲によりあの気持ち悪い牙に噛みつかれていたであろう。
「ほら見ろ! 言わんこっちゃない! フラグ立てたから出てきたじゃないか!!」
「マスターも立てたじゃない! 魔眼を試したりなんかするから!」
「どうしてそれが駄目なのさ!?」
「索敵能力使って何もなかったら意味ないでしょ? 敵が来たから魔眼が効果的だって分かったじゃない! 空気の読める敵だったって事でしょ」
「…………仰る通りです、ごめんなさい。フラグ立てたの……俺でした」
「魔王様、今はとにかく下がってください。敵が来ます!」
しょうもない話題で混乱する中、近づくロックワーム目がけて黒い槍のようなものが放たれる。
「シャドーランス!」
それはセレーネが放った闇の魔術であった。闇属性中級魔術〝シャドーランス〟。
その名の通り闇の魔力により形作られた槍は貫通力に優れた性能を持ち、ロックワームの無数の牙に覆われた口に直撃すると、そこを破壊し身体を貫通した。
身体の内部を黒い槍が通過したダメージで、固い装甲を持つロックワームは内側からあっけなく崩壊していくのであった。
「「たった一撃で倒した!?」」
「ロックワームは外側はとても固いけど、口の所は案外もろいから、そこから攻撃すると意外と簡単に倒せるのよ」
驚く一同に対し、セレーネはのほほんとした様子で答える。
「セレーネ、ロックワームの攻略法知ってるなら先に教えてよ」
「ごめんなさい、教えるのをすっかり忘れていたわ。でも、ここは私が引き受けるから大丈夫。昔ロックワームが大量に出てきた時に色々な倒し方を試しているからお手の物よ」
「……さすがブラックドラゴン殿、拙者感服しました」
亀の甲より年の功と言わんばかりに、長命なドラゴン時代の豊富な経験を存分に活かすセレーネを改めて頼もしいと思うドラグ達であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます