第129話 魔眼発動
当初は最短ルートで進もうと考えていたが、それだと道が狭くなり危険な場所が何か所もあるので、少し
「……セス、なんかあったか?」
「なんだ? ロック、突然に」
「いや、今日のお前はなんていうか、今までと違って冷静というか……」
「私は常に冷静だ」
「そうなんだけどさ……うまく言えないけど、いつもよりピリピリしているというか……何か1人で考え込んでいるというか……そんな感じがするんだよ」
ロックの言葉にセスは一瞬目を見開くが、すぐに元の調子に戻る。だが、その表情には微かに笑みが見られる。
「すまないな、ロック。だが私は問題ない。だから心配しなくても大丈夫だ」
「そっか……ま、無理すんなよ」
いつも喧嘩ばかりしている2人のこのようなやり取りを見て、バルザスは心から喜びを感じていた。だが、その心情を表に出す事はなく、今はただ冷静に若い皆を先導者として引っ張って行く。
大広間が終わり、1本道に侵入しようとしたところで突然アラタが提案をする。
「セス、俺がやろうと思ってた案内役任せていい? ちょっと試したい事があるんだ」
「構いませんが、魔王様、何をなさるおつもりなんですか?」
「〝魔眼〟を使ってみようと思う」
「! 魔眼って確か目に魔力を宿らせて、色々感知できるようになるっていうのでしょ? マスター、今は使わない方がいいんじゃ?」
かつてバルゴ風穴内でアラタと共にグリフォンと戦ったトリーシャは、魔力使用後に彼自身を襲う反動を心配する。あの時も、戦いの後彼は何時間も目を覚まさない程疲弊していたのだ。
「大丈夫だよ、トリーシャ。最低限の魔力で発動させれば身体への反動も少ないし、ある程度なら連続使用もできる」
「でも……」
それでも心配をする彼女に、アラタは真剣な表情で現在の心境を語る。
「……スヴェン達の予想が当たれば、たぶん俺達はすぐに破神教の連中との戦いに入る。だから、エトワールでやった訓練成果をここで試しておきたいんだ。いざって時に焦って上手くできなかったら駄目だからな」
「マスター……分かったわ」
アラタの意思が固い事を知ったトリーシャは、これ以上口を挟む事は彼の心構えに水を差すだけだと考え、魔王の行動を見守る。
アラタは、自身の中で固く閉ざされた扉を少しだけ開けて最低限の魔力を抽出するイメージを膨らませる。そして、その力を自らの両目に限定して集中させる。
アラタがゆっくりと目を開けると、その
「よし! 出来た!」
「魔王殿、身体は大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫だ。最低出力だから大した事はないよ。これなら、長時間連続で使っても問題なさそうだ。それに――」
アラタが周囲を見回すと、魔王軍の全員からそれぞれオーラのようなものが立ち
さらに身体の真ん中にはオーラの発生源である渦状の存在がある。恐らくこれが、魔力の流れなのだろうとアラタは解釈していた。
その渦は、その人物が魔力を高めると回転が早まりオーラの生成が強まる。この魔力の流れを視認する力は、エトワールでの訓練で会得した技能であった。
その瞳でアラタはバルザスの方をチラッと覗いてみる。
(……やっぱりだ。バルザスだけ渦の大きさや流れが皆よりずいぶん弱い。エトワールで訓練していた時より小さくなっているようにも見える)
バルザスの〝渦〟の様子を見てアラタの中で不安感が増していく。いつも頼りにしている彼の身に何かあったら自分は……いや、自分達はどうしたらいいのだろうという気持ちになってしまう。
「? 魔王様、どうかしましたか? 先程から私の方を見て黙ってしまっていますが」
「え? ああ、いや何でもないよ。ちゃんと発動出来て安心してただけだよ」
不安感を胸の奥底に閉じ込めて、今は目の前に続く道に魔力の反応は無いか注意と魔力を張り巡らせる。
「……大丈夫だ。今のところロックワームは近づいていないみたいだ」
「それでは、アラタ様の魔眼とネモさんからもらったペンダントの反応を頼りに進んでみましょう」
アンジェ、トリーシャ、セレーネの3人はペンダントを手に載せて反応があれば皆の目に入るようにし、一同は坑道を進み始めた。
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