第127話 いざ、ジルグ鉱山跡へ

「結局、破神教の拠点に送った増援部隊も戻らず……か。オーガスはこの事を王都に伝えないんだろうな」


「そうね、彼はプライドが高いから自分の失態を認めるような事はしないでしょうね。一応、私用のスフィアで連絡は入れておいたけど正直救援は間に合わないと思う。恐らく一両日中に敵は動くはず……」


「敵がこのままどこかに逃げてしまうという可能性もあるんじゃないんですか?」


「それはないね。連中の動きは明らかに機を窺っている感じだからね。確実に何らかの形で仕掛けてくるだろう」


 スヴェン一行はいつもの詰所で議論を重ねていた。シェスタ城塞都市の騎士団がまともに機能しない可能性が高い状況において、自分達の今後の行動を整理しておいた方がいざという時に的確に動けるからである。


「そういや魔王軍はそろそろ動き出す頃か?」


 ジャックが時間を確認すると、そろそろ夕刻――日が落ち始めていた。昨日の魔王軍との対談では今日の夕方にノームとの契約のためジルグ鉱山跡に侵入を試みるとの事であった。

 その間に、ここで何かしら緊急事態が発生しても彼らは対応できない。その時は自分達だけで何とかするしかないのだ。


「彼らにはとっととノームとの契約を済ませてもらって、ここに戻ってきてもらわないとね」


「………………」


 スヴェンはどうにも腑に落ちなかった。昨晩、魔王軍との話し合いの席にエルダーはおらず、自分達だけで彼らとの一時的な同盟契約を行った。

 その後合流したエルダーに、その事を説明すると彼はそれをすんなりと受け入れた。いつも自分達のやることに対しわざと異論を唱えたり、問題提起をする彼が今回ばかりは何のアクションも起こさなかったのである。


(一体どういうことだ? どうして今回は何も言って来なかった? 魔王軍とのやり取りにはまるで興味がない……というかあまり深く掘り下げたくない、みたいな感じがするな……俺の思い過ごしか?)


 エルダーに対する不信感が拭われないまま、時だけは無情に進んでいく。部屋の窓から覗く太陽はゆっくりと山々の間に沈んでいき、夕闇が世界を支配しようと広がりを見せていた。




 太陽が沈みかける中、魔王軍はシェスタ城塞都市の正門から外に出て行く。昨日、町に入場する時にも受付を担当してくれた若い男性の門番が気さくに話しかけてくる。


「こんな時間に外出ですか? あっ、もしかして星を見るんですか? この辺りは綺麗な星空が見られる事でも有名ですからね。今日は雲も少ないし良く見えると思いますよ」


 明るい門番にお礼を言いながら、アラタ達はネモの指定した町の北側にある岩場を目指す。

 その間、門番の男性の様子からこの町の騎士団の警戒レベルが低い事を心配するのであった。


「近くに破神教の信徒達が潜伏しているのに、随分と警戒が甘いわね。外に出るのを渋られるかと思っていたけど、そんな心配全然なかったわね」


「スヴェンさん達が心配する訳ですね。あの感じだと、この町の騎士が100名派遣された目的も正確には門番に伝えられてはいないようですね。ちゃんと情報統制が取れているなら、もっと警戒心を持つはずですから」


「早くノームちゃんとの契約を済ませて戻ってきましょう」


 魔王軍女性3人組の表情は暗かった。いや、彼女達だけでなく魔王軍全員の表情は固くなっている。

 今や、彼らの心中にはノームとの契約よりも、いつ襲ってくるか分からない敵――破神教に対する不安感が満ちていたのである。

 自然と速くなる足取りのためか、すぐに目的地である岩場に到着した。そこには、不自然かつ無造作に置かれた岩が大量に陳列され、ちょっとした丘のようになっていた。

 その周辺には同様の岩場はなく、これが人為的に作られたものである事が分かる。


「約束の時間よりも随分早かったじゃないか。何か焦っているようだがどうかしたのか?」

 

 突然聞こえた声にアラタ達が警戒すると、岩場の影から1人の男性――ネモが姿を現した。


「びっくりしたー。……ネモさん、もう来てたの? まだ時間には早いけど」


「レディを待たせるわけにはいかないだろ? 予定よりも早く行動し、準備をしておくのは当然だぜチェリーボーイ」


「……そっすか」


 アラタはネモの「チェリーボーイ」発言をスルーし、今シェスタ城塞都市は危険である事実を彼に伝え、どこか安全な場所に逃げるように促した。

 ネモは「分かった」とだけ答えると、本来の目的へと話を戻し岩場の中心部分へ一行を案内するのであった。

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