第126話 蠢く破壊の信徒②

「2人とも寝てていいよ。実際君達の出番はないだろうからね。僕としては今日手に入った30体のオモチャを早く動かしてみたくて仕方がないんだ。それに……それを目の当たりにした連中がどんな顔をするのかも興味あるからね」


 ドクロの装飾を身に纏った青年はまるで少年のように無邪気な笑顔を見せている。だが、その目はドブのように濁りきっていた。

 そんな青年の事を赤い髪の女は苦手であった。彼――ガミジンは死体を操るネクロマンサーであり、彼が所持するアンデッド数は優に1000を超えるのだ。

 その数も彼女が知っているものだけであり、もしかしたらもっと多くのアンデッドを保有しているのかもしれない。そう考えるだけで背筋が寒くなる感じがするのである。


「そう、ならわたくしはお言葉に甘えて就寝させていただくわ。アロケル、あなたはどうするの?」


 アロケルと言われた獣王族の男は、腕を組んだままどうするか少し考えていた。


「……俺は戦いには参加するつもりはないが、一応戦いの様子を見てみるつもりだ。期待はしていないが、もしかしたら猛者が紛れているかもしれんからな」


「あら、そう……ではおやすみなさい」


 そう言うと赤い髪の女は拠点に用意された自室に入って行った。そこには浴槽にたっぷりお湯が張られており、バラの花びらが湯を隠すほどたくさん投入されている。

 彼女はこの湯につかり、ふかふかのベッドで眠ることをルーティンとしていた。 これを阻害されるのは我慢ならないのである。

 黒いドレスのようなローブを解除し、露わになるエキゾチックな肢体を湯の中に滑らせていく。


「ふぅ……やっぱり1日の最後はお風呂に限るわね」


 彼女は、その豊かな胸の谷間にバラの花びらを集めながら、これまでの事を色々思い返していた。

 喉元に手をやり少し声を出すと、問題なく美しい声が浴室に響く。つい最近までは先日の戦いによって受けたダメージにより、まともに声を出す事ができなかったのだ。

 自身の身体に傷をつけた張本人――魔王に殺意を抱きながらも、今はいつもの楽しいひと時を満喫する。




 赤い髪の女が自室に入り、そこには2人の男が取り残された。しばらく沈黙が続いたが、先に口を開いたのはガミジンであった。


「アロケル、言っておくけど、敵にそれなりに出来る奴がいたとしても手を出さないでもらえるかな? そういう奴はなかなかいい素材になるんだよ。あんたがやると相手はぼろ雑巾のようになっちゃうからアンデッド化させようにも、ろくな仕上がりにならない」


 ガミジンの訴えに対し獅子顔の男は、やや不服そうな表情をするが、自分達の戦力増強にはガミジンの力が不可欠と考え承諾した。


「まあ、いいだろう。ただし、明日のシェスタ城塞都市では俺は好きにやらせてもらうぞ」


「勝手にしなよ。要はあそこの連中を皆殺しにして、僕達の存在を世界中に知らしめるのが目的なんだからさ。……その過程なんてどうでもいいよ。でも今あそこにいる勇者スヴェンは僕がもらうよ。あいつにはせっかくこしらえたベヒーモスを台無しにされたからね、死んで償ってもらわないと。……そしたら、あいつもアンデッドにして僕のコレクションにするのもいいかもね、あはははははは!」


(ふん、悪趣味な奴め)


 勇者をアンデッドにする妄想をして1人楽しむガミジンを見るアロケルの目は冷ややかであった。

 自らの武を極めんとする彼にとって、死人を使役し戦わせるガミジンの戦闘スタイルは嫌悪するものであったからである。


「ガミジン、待機させてあるアサシン共は迎撃に使うのか?」


「ん? ああ、必要ないよ。アサシン達は明日シェスタで色々動いてもらうからね。騎士団の迎撃は僕だけで行うよ。その方が色々と都合がいいしね」


 彼らがいるこの広い空間において、光が届かない暗闇の中に白い仮面をつけた黒装束の者達が立っている。その数は20名程であろうか、気配を殺し闇と同化する異様な雰囲気は奇妙な圧迫感を放っている。

 だが、そんな影のように静かな者達の中で1人の男が笑みを浮かべていた。


「くかかかかかか、明日か……楽しみだな……何人をどのようにして殺してやろうか……かかかかかかかかかっかかかかかかっかか」


 そして夜はふけていき、シェスタ城塞都市から出発した増援の騎士団員70名がこの拠点に到着するのだが、夜が明けても誰1人としてシェスタに戻る者はいなかった。

 それにより、たった2日でシェスタ城塞都市にいる騎士団員の約半数にあたる100名が行方不明となったのである。

 シェスタ城塞都市駐留部隊の隊長オーガスは、この事実を王都アストライアの騎士団本部に伝えようとはしなかった。

 もし、この事実が発覚すれば責任者である自分の責任問題になり、処罰対象となる事は避けられないからだ。

 そして、彼のこの選択が最悪の事態を招く事になるのだが、今それを知る術はなかった。

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