第125話 蠢く破壊の信徒①

 こうして魔王軍とスヴェンパーティーの一時的な同盟が成立し、緊張が解けた事で皆が胸を撫で下ろすのであった。

 その最中、スヴェンがわざとらしい咳ばらいをしながらアラタに話しかけてくる。


「んっんー、ところで魔王君。以前はいなかったあちらの美しい女性はどなたかな? ……紹介してもらえると助かるんだが」


「なんだ、その気持ち悪い喋り方は。……彼女はセレーネといって最近俺達の仲間になったんだよ」


 せっかくなので、セレーネをスヴェン達に紹介すると、スヴェンはまだしもジャックやコーデリアも彼女の美しさに顔を赤くする。

 その後方では、シャーリーが自分の胸とセレーネの胸を何度も見比べて、最後は目に涙を浮かべていた。


「えーっと、勇者のスヴェンちゃん、お姫様のコーデリアちゃん、モンクのジャックちゃん、ヒーラーのシャーリーちゃんね。よろしくね」


「「「「よ、よろしくお願いします」」」」


 例の如く全員をちゃんづけ呼称するセレーネ。そして、そのむずがゆい響きを何となく受け入れてしまうスヴェン達であった。

 アンナが用意してくれた軽食のサンドイッチを食べながら、話題はセレーネの事となり、紆余曲折を経て最終的には彼女が元伝説のブラックドラゴンである事実を話した。

 最初は目を点にする4人だったが、彼女と出会った時の事を具体的に話すと理解できたようであり、生きた伝説を前に興奮を隠せないようであった。

 その後、色々と情報交換を行うとスヴェン達は帰っていき、入れ替わるようにしてセスとバルザスが帰ってきた。

 2人にスヴェン達との同盟の件を伝えると、バルザスはその時のやり取りを見たかったと悔しがり、一方でセスは元気がなく、アラタ達と少し会話をすると「先に休みます」と言って部屋に行ってしまった。


「セスの奴、随分元気がないけど大丈夫かな?」


「とにかく今は休ませてあげよう」


「そうですね、かなり〝ツかれて〟いるようですし、そっとしておきましょう」


 真面目にセスを心配するアラタとロックの横で、アンジェは無表情であらぬ妄想を展開しているようであり、そんな彼女を見る2人の目は冷ややかであった。




 シェスタ城塞都市から数キロ離れた場所に、岩でできた古い建物があった。それは山の一部を削り外見は神殿のようであり、中は外から想像できない程巨大な空間になっていた。

 ここは魔王乱立時代に、魔王の一大勢力が拠点として作った場所であり、主やそれに従う者達が他の勢力に討たれてから数百年放置されていた。

 しかし、破神教の信徒がたまたまこの建物を発見してからは、アストライア騎士団に気付かれないように修繕が加えられ、現在ではシェスタ城塞都市に睨みを利かせる拠点となっている。

 元々、敵に発見されにくいように死角になる位置に作られたものであるが、さらに不可視の魔術〝インビジブル〟がかけられ、さらに発見されにくいように細工されている。

 普段であれば、インビジブルにより騎士団の目をあざむきシェスタの動向を窺うところであったが、この日は違っていた。

 意図的にインビジブルを解き、わざわざジルグ山を巡回中の騎士団の目に留まりやすいように信徒を放ち、この場所を発見できるように仕向けた。

 その甲斐もあり、シェスタ城塞都市から30名程の騎士がここに送り込まれた。報告ではさらに70名の騎士がこの場所に進軍中らしい。

 拠点の奥は、淡い光を放つ輝煌石が複数設置され、暗黒の空間に僅かな光を灯しており、そこに3名の男女の姿があった。

 1人は獰猛どうもうな獅子の顔に鍛え上げられた肉体を持つ獣王族の男〝アロケル〟、2人目はフードの付いた魔術師が好むような黒いローブを纏い、ドクロの装飾品に身を包んだ青年〝ガミジン〟、そしてもう1人は胸元が大きく開いた黒いドレスを身に纏った女性であった。

 女性の腰まで届く赤く艶やかな髪と深紅のルージュで彩られた唇はエキゾチックな雰囲気を醸し出し、その目は琥珀色に妖しく輝いている。


「先程アストライア騎士団の第2陣がシェスタを出発したらしい」


 獅子の顔を持つ男が、鍛え上げられた両腕を組みながら、偵察からの報告を2人に伝えていた。抑揚のない話口調で、あまりこの出来事に興味を持っていないようである。


「それなら、あと1~2時間くらいでここに来るのかしら? もう夜も遅いし、わたくしは眠りたいのだけれど」


 赤い髪の女もまた、騎士団の動きには特に興味がない様子だ。それよりも自身の睡眠時間確保の方が大切なようである。

 適度な睡眠は健康だけでなく肌にも良いからである。騎士団を相手にするよりも、自身の美しさを維持するための努力をする方が何倍も価値があるのだ。

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