第124話 再び交わる道

 この申し出に、参謀が不在の魔王軍一同は黙ってしまい、皆の視線が魔王であるアラタに集中する。

 このような場合、バルザスとセスが内容を吟味して最終的にアラタが決定をするのだが、今はその2人がいない。そのため、全ての決定権が彼の手に委ねられる。

 

「……人道的に考えれば、2つ返事で了承したいところではあるけど、それは俺個人の意思だ。この問題は魔王軍全員の生死に関わる。だから、この話を俺達が受け入れた時のメリットを教えてもらいたい。その内容が俺達が命をかけるのに見合うものなら力を貸すし、そうでないなら俺達がその時どんな行動を起こすかは保証できない」


 アラタの発言に驚いたのはスヴェン一行ではなく魔王軍の面々の方であった。普段の彼の性格を考えればスヴェン達の申し出を素直に受け入れるとばかり思っていたからである。

 だが〝魔王〟として仲間の命に対する責任があるアラタもまた、〝仲間の命を極力危険に晒さないようにする〟という義務を自身に課していた。

 国民を守りたいコーデリアと仲間を守りたいアラタ。それぞれ守りたい命を天秤にかけ、互いに納得の行く形に持って行けるように模索する。

 コーデリア達は、アラタがこのような意見を述べる事を想定していたらしく、全員で顔を見合わせ頷くと再びアラタを見ながら会話を再開する。


「もちろん、ただであなた方に力を貸して欲しいとは考えていません。これはあくまで政治的な話です。当然協力の見返りとして考えているものがあります。……魔王さん、あなた方は今契約している大精霊はイフリートとシルフの2体で間違いないですか?」


「……ええ、そうです。そして、ここには大地の精霊ノームとの契約のために来ました」


「そうですか。であれば、残り2体の大精霊との契約に対し私達のパーティーは干渉しないと誓います。そして、シェスタを発って最後のウンディーネとの契約完了までは私達が護衛としてあなた方と行動を共にする……というのはどうでしょうか?今は破神教の攻撃の可能性があるのでノームとの契約時の護衛は出来ず申し訳ないのですが……」


 勇者パーティー直々の護衛という内容は、破神教による攻撃を常に警戒しているアラタ達にとって魅力的なものであった。

 特に残りの契約が2体となっている今は、それを危惧する敵の襲撃がある可能性が高いとバルザスも常々言っている事であった。

 そのため、このタイミングで強力な助っ人が護衛に付いてくれるのなら自分達の危険性もかなり軽減される。


「……なるほど。皆はどう思う?」


「いいんじゃない? マリクの時に一度共闘しているし、彼らの協力は心強いと思う」


「拙者もトリーシャと同意見です」


 他のメンバーも答えは肯定であり、反対する者はいなかった。


「……よし! コーデリアさん、俺達はその条件であなた方との共闘を受けます。よろしくお願いします」


「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します」


 コーデリアはホッとした様子で笑顔になり、アラタに右手を差し出していた。アラタはごく自然にその手に右手を出し握手を交わすのであった。


(あっ……今自然に握手しちゃったけど、この人お姫様なんだよな。ヤバいな……お姫様と握手しちゃったよ)


 一国の姫と手を触れ合わせた事に対し、表情が綻びそうになるのを必死に我慢しポーカーフェイスを装うアラタであったが、そんな付け焼き刃の意思では表情筋の緩みを抑えることはできなかったらしい。


「お姫様とスキンシップができて大変嬉しそうでございますね、マスター?」


「メイドよりお姫様に興味がおありのようですね、アラタ様?」


「いくらなんでもニヤニヤしすぎだと思うわよ、アラタちゃん!」


 魔王軍所属の女性3名に同時に叱られる魔王。アラタ自身はかなり焦っていて気が付かなかったが、周囲から見れば彼女たちの行動は嫉妬以外の何ものでもなく、それを見ていた周囲の人々はニヤニヤしていた。

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