第122話 赤髪の探偵セス②

(あれはスヴェンのパーティーのエルダー……だったか? バルザス殿と彼は繋がっていたという事か? だとしたら、バルザス殿はアストライア王国側のスパイなのか? しかし、今の魔王軍を作ったのは彼だからその可能性は低い……ということは……)


 セスが現状から色々と推測を立てていると、周囲への注意がおろそかになってしまったのか足元の小枝を踏んづけてしまい、静まり返った空間にパキッと小気味よい音が鳴ってしまう。

 その音に驚いた2人が音の鳴った方に急いで視線を向け、物陰に隠れていた人物の存在に気が付くのであった。


「……そこにいるのは分かっている。姿を見せなさい、そうすればこちらも手荒な真似をするつもりはない」


 バルザスがいつもの紳士的な口調で言うと、物陰から1人の青年が出てきてその姿を月夜が照らす。


「……セスか……やはり君を魔王軍に誘ったのは正解だったな。私の行動にまず疑念を抱くとしたら君であると思っていたよ」


 バルザスは最初こそ驚く様子を見せていたが、セスの姿を認めると表情をほころばせる。それはまるで「よくぞ、ここまで辿り着いた」と言わんばかりの微笑みであった。

 彼の表情を見た事で、頭の中で一旦完成しかけた推論がまたもやバラバラになる。

 セスは、苦々しい思いで2人を交互に見ていると、沈黙を守っていたエルダーが2人の会話に参加するのであった。


「魔王軍には中々頭のきれる奴がいるようだね。まあ、そんな人物がいなければ破神教との戦いは厳しくなるからね。良い人選じゃないか、バルザス?」


「!! やはり2人は繋がっていたのですね」


「そうであったら、なんだというのかね?」


「……驚きもありますが、合点がいったというのが正しいですね。思い返せばこの旅は順調に進みすぎでしたから。今までいくつもの町を訪れましたが、アストライア王国騎士団と鉢合わせになった事がありませんでした。あったのは、せいぜい勇者スヴェンパーティーとの1件位なものです。騎士団は複数の部隊を周辺の町に派遣しているのにニアミスすらないのは都合が良すぎると思っていました」


「………………」


 バルザスは黙りながらも心底嬉しそうな表情をしていた。彼がそのような顔をする事で馬鹿にされた気がしたセスは苛立ちが募っていく。


「……それを意識したのは最近です。元々あなたを怪しいと思ったのは、あなたが色々と知りすぎていると感じたからですよ、バルザス殿。1000年前の魔王グラン様の事も神魔戦争の出来事についても文献にも残っていない事をあなたは知っていた。それらを結び付けて今回あなたを尾行しようと思ったのです」


「……素晴らしい」


 バルザスの満足そうな笑みは相変わらずであり、それは嘲笑などではなく子の成長を喜ぶような純粋なものであった。

 だからこそ、セスは彼に疑念を抱くと同時に、自らの推測が間違いであってほしいと祈るような気持であった。

 そして、彼の口からセスが求めていた答えが語られようとしていた。


「セス……単独でこの状況に辿り着いた君になら、私が何者なのかを知る権利がある。だが、その前に今から話す事や見たものは時が来るまで他言しないで欲しい。特に魔王様には」


 それは何故なのか疑問に思うセスではあったが、その答えもこれからバルザスが語る内容に含まれていると考え、ただ頷くのであった。

 それを確認した眼前にいる2人。そのうちの1人であるエルダーが、おもむろに自らの顔を覆い隠すフードに手をかけ、それを外す。

 フードの下から現れた顔を目の当たりにし、セスは硬直してしまう。なぜならその顔に見覚えがあったからである。


「まあ、驚くのも無理ないだろうね。その答えも今から分かるから安心したまえ。……では、少し長くなるが話そう……そもそも始まりは1000年前にあった神魔戦争時にさかのぼる……」


 再び厚い雲が月を隠し、3人の姿は漆黒の中に消えていくのであった。

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