第121話 赤髪の探偵セス①

「! まさかおまえ魔王軍に助けてくれって言うつもりか? 仮にもアストライア王国の姫だろうが」


「……そんなの関係ないわ。なりふり構っていられないもの。それにあなただって、個人的に魔王さんに入れ込んでるでしょ? それってつまり信頼しているって事じゃないの?」


 コーデリアのいつも以上のストレートな発言に勇者はぐうの音も出ない。彼女の言った事は的確であったため否定する事は出来なかったのだ。


「……分かったよ。確かにあいつらが戦力になるのは間違いないしな。ここに来たのなら宿屋に泊まっているだろうから、しらみつぶしに捜すか」


「あっ、それならこの町の一般の宿屋じゃなくてギルドと提携している宿屋を探しましょう」


 いつもは大人しいシャーリーが珍しく積極的に発言したので、スヴェン達は少し驚いていた。同時にその理由を彼女に尋ねる。


「この町の宿屋はアストライア王国以外の人が使おうとすると結構な税金がかかるんです。それに魔王軍と思われる一行はギルド協会が発行した通行許可証を所持していたらしいです。それならギルド協会と関連する場所に彼らがいる可能性が高いと思います」


「「「「おお~、さすが身体は子供頭脳は大人だね」」」」


「…………皆、余計なお世話です!」


 シャーリーの推理に素直に感心する勇者パーティーであったが、本人は仲間達の称賛の仕方に大層不満のご様子であった。

 それからギルド協会関連の宿屋を調べてみると、その数は思ったよりも少なく候補を一気に絞り込む事ができた。

 魔王軍捜索が一気に楽になったので今回は助かったが、この町にはギルド関連の施設がほとんどないという事実を目の当たりにし、アストライア王国とギルドの間には深い溝がある事を改めて思い知らされたのである。

 そのような不穏な事実を今は飲み込み、スヴェン達は3つに分かれて彼らを捜す事にした。スヴェン、コーデリア組とジャック、シャーリー組そしてエルダーの3組だ。

 最初は2手に分かれようとしたが、エルダーが効率を考えて自分は1人でいいと言ったのでこのような組み合わせとなり、夜のとばりが下りる中彼らはシェスタの町で人探しを開始するのであった。




 ネモと分かれ数時間が経ち、宿屋『ノームのゆりかご』では食事目的の客が全員帰宅し、食堂では宿泊客がゆったりとした時間を過ごしていた。

 魔王軍の面々も町中には出向かない方針であったので、他と同様に宿屋がサービスで提供してくれている紅茶を飲みながら束の間の平和を楽しんでいる。

 バルザスは時計をちらりと見ると、ゆっくり席を立ち少し夜風に当たって来ると言って宿屋から出て行った。

 彼の行動を観察していたセスは手洗いに行くと皆に伝えた後に別の出入り口から外に出てバルザスに気付かれないように後をつけていく。

 バルザスは宿屋から離れ人気のない民家裏を迷うことなく進んでいく。バルゴ風穴後から彼の言動や行動に対し注意を払っていたセスは、この彼の行動を見てますます疑念を抱く。


(バルザス殿はどこに向かっているんだ? 誰かと会うのか?)


 すると、シェスタの町を守護する城壁の内壁部に到着し、そこで誰かが待っているのが見えた。セスは見つからないように物陰に隠れながらバルザスと彼を待っていた人物に視線を送る。

 周囲には光源がなく2人の姿は正確に確認できない。しかし、時折2人の会話が夜風に乗ってセスの耳に入って来る。


「こ……では、予定通り……ノーム……ウンディーネ……封印……、破神教……注意……」


(なんだ? 予定通りだと? それに精霊の名前に破神教? 一体誰と話をしているんだ?)


 必要とする情報が入手できず、わずらわしさを感じるセスはせめて話相手の顔だけでも確認したいと必死に目を凝らす。

 そのような中、空に厚くかかっていた雲の切れ目から月が姿を現し、暗闇の中にいた2人の姿を照らし出した。

 その瞬間、セスは思わず声を上げそうになったが片手で口元を抑え、それを何とかしのぐのであった。

 バルザスと一緒にいる者にセスは見覚えがあったのだ。以前マリクにて出会った人物――勇者スヴェン一行の1人エルダーの姿がそこにあった。

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