第120話 コーデリアの狙い

「だけどよ、さっきも言ったけど十司祭がいたら30人程度の騎士じゃ歯が立たないぜ。俺達も行ったほうが――」


「だから、その必要はないと言っている」


 ジャックの発言をオーガスが遮る。その表情には明らかに怒気が含まれていた。


「現在も70名の増援を送る準備を進めている。これだけの規模を投入すれば、たかがテロリスト集団など軽く一網打尽に出来る」


 彼の見解を聞き、スヴェン達は心底呆れてしまった。相手は破壊神を復活させて1000年前の世界規模の戦争を再現しようとしている組織だ。

 その幹部クラスともなれば、一体どれほどの実力を秘めているかは未知数であり、可能な限り強力な実力者を戦線に投入するのが安全策なのだが、オーガスは敵の戦力を完全に見誤っている。


「オーガス隊長、意見してもよろしい? あなたの話では計100名の騎士を派遣するようですけど、それだとここの全戦力の約半分を投入する事になります。それでは、この町で何かしらトラブルが生じた際に対処できない可能性があります。それに、現在この町には魔王軍と思しき一団が駐留している可能性が高いとか……そちらはどうするのですか? まさか、このまま野放しにするのですか?」


 コーデリアの詰問にオーガスは一瞬眉をひそめるが、すぐに顔から感情を拭い去る。


「ご存知でしたか、さすが耳が早い。……現在魔王軍に関してはあくまで、彼らの可能性があると言うだけです。とりあえず放置しておいても問題はないでしょう。それよりも今優先すべきは破神教信徒の殲滅です」


 彼が魔王軍にさして興味がない事を察すると、コーデリアは一瞬笑みを見せるのであった。


「分かりました。では私達は、この町に侵入した可能性のある魔王軍の捜索を行います。ここで暇を持て余すよりはその方がいいでしょう?」


「…………お好きにどうぞ。ですが万が一、魔王軍がいた場合くれぐれも戦闘はなさらないようお願いします。対処は我々が行います」


「結構。では我々は参ります」


 オーガスとの話し合いが終わると、コーデリアはスヴェン達を引き連れてとっとと騎士団監視塔から出ていくのであった。

 その後ろ姿をオーガスは苦々しい思いで見送ったが、同時に厄介払いができたとも思っていた。

 彼の中では一国の姫君であるコーデリアは敬意の対象であるはずなのだが、スラム出身のスヴェンと行動を共にしている事で彼女を軽んじているところがあった。 もちろんコーデリア自身はそんな彼の歪んだものの見方はお見通しである。

 だからこそ、これ以上彼と話をしていてもらちが明かないと思い、自分達が魔王軍と接触できるように仕向けたのだ。


「姫様、実にうまい誘導だったね。これで我々は自由に町の中を動けるし魔王軍にも接触できるわけだ」


 久しぶりに外の空気を吸いながらエルダーはコーデリアを称賛していた。フードを深く被っていて表情こそ分からないが、さすがの彼もしばらく狭い部屋に缶詰めにされて辟易していたようだ。

 他の3人も今回のコーデリアの行動力には驚いている様子だ。いつもの彼女ならば自身の立場を前面に出した強硬策に出る事などないからだ。


「コーディ、一体どうした? 何かいつもと様子が違うぞ?」


 スヴェンが彼女の鬼気迫る様子を心配していると、その表情そのままにコーデリアは彼に振り向く。

 よくよく彼女の顔を見てみると、そこには怒りではなく切羽詰まったような余裕のなさが表れていた。


「スヴェン、もし破神教の信徒達が本格的に行動を開始したら、この町の騎士団だけではとても対処できないわ。あなたもオーガスの言った事を覚えているでしょ?彼は敵の恐ろしさや戦力を見誤っている。それに私達の話に耳を貸そうともしていないわ。だから、もし最悪の事態に陥った時に力を貸してくれる信頼できる味方が必要なのよ。それも破神教の恐ろしさをちゃんと理解している味方がね」

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