第119話 2つの報告

「今ここの騎士団では2つの情報が入ってきてバタバタしているようだ。まず1つ目は、今日の昼過ぎにシェスタ城塞都市、つまりこの町に8人組の傭兵ギルドが入ってきたという話だ」


「それのどこがおかしいんだ? 傭兵ギルドがこの町に来るなんて日常茶飯事だろ?」


 ジャックが疑問を投げるとエルダーはそれを手で制止するような素振りを見せて話を続ける。


「確かにそれだけなら普通の光景でしかない。しかし、その一行には竜人族やルナールといった亜人族の中でも珍しい種族がいたらしい。ちまたでは魔王軍にもこの2つの種族の者が幹部として参加しているという報告が入っているから、今こうして騒いでいるんだろう」


「………………」


 エルダーが話している間、スヴェン達の表情は少し引きつっていた。それもそのはず、魔王軍メンバーの特徴をアストライア騎士団に報告したのは他の誰でもない彼らのパーティーであったのだ。

 勇者パーティーの義務として一応真面目に報告したが、魔王自身が地味であったので身バレする危険性は低いと考えていた。

 だが、彼らの中に珍しい種族のメンバーがいた事で思いのほか魔王軍と特定されやすくなっていたのだ。


「もうちょっと特徴ぼかしときゃよかった……」


 両手で顔を覆いうなだれてしまうスヴェン。いつも報告はちゃらんぽらんなのに今回に限っては真面目に行った。

 ちゃんと仕事をしたので、それは良い事なのだがどうしても後悔してしまう。


「スヴェン、今さら後悔してもしょうがないでしょ。それに、悪い事だけでもないわ。彼らが無事にここに到着した可能性が高いって事が分かったでしょ?」


「そうですよ。ポジティブに考えましょうよ」


 コーデリアのフォローにシャーリーがすかさず加わる。15歳ほどの少女のにっこり笑顔によって場の雰囲気が良くなりかけていたが、当の本人がもう1つの情報を話すと再び緊張が走るのであった。


「えーっと、もう1つの情報なんですけど、どうやらこの付近に潜伏している破神教信徒達の根城が判明したみたいです。それで、オーガス隊長が30名位の騎士を向かわせたと言っていました」


「はぁーーーー!? なんだそりゃあ! 俺達はあいつらを追ってここまで来たんだぞ! それなのに何で俺達にその情報が来なかったんだよ!?」


 憤っているのはスヴェンだけではなく、全員が面白くなさそうな表情をしている。シャーリー自身も、この話を聞いた瞬間は苛立ちを隠せず、おとなし目な少女が目の前で不機嫌になるさまを見た騎士たちは腰が引けていた。


「隊長のオーガスは貴族至上主義で貴族出身のぼんぼんだからね。スラム出身の勇者に手柄を取られるのが面白くなかったんだろうね」


 状況を冷静に考えたエルダーが推測を立てるが、それを聞いたコーデリアは一層苛立ちが募る。アストライア王国の王族として、騎士団員の歪んだ思想による身勝手な行動を許せなかったからだ。


「仮にも1つの町の治安を守る騎士団の隊長が、こんな差別意識を持って部隊を動かすなんて!」


「姫さん、別に差別意識を持っているのは彼だけじゃないよ。勇者の中にだって、そういう思想を持っている者はいるだろう? 今さらだよ」


「――!!」


 エルダーの発言にコーデリアは何も言えなかった。実際に、勇者の1人であるフォルカは、スラム出身のスヴェンを快く思っていない。上級貴族出身の彼は未だにスヴェンを勇者として受け入れてはいなかったのだ。

 そのため、コーデリアは何度もフォルカと話をしたが、結局解決には至らなかった。この事実は差別を嫌悪するコーデリアの心にしこりのように残っていた。そこをエルダーに的確に突かれたため、ぐうの音も出ない状況なのである。

 だがそこに一石を投じたのは、スヴェン自身であった。


「別に差別とか手柄とか、そんな事はどうでもいい。問題なのは、ここに来た破神教の連中には十司祭が混じっている可能性が高いって事だろ? とてもじゃないが、ここの騎士団の奴らが30人いたところでどうこうできる相手じゃない。直接オーガスの所に行って俺達も作戦に加えてもらえるように直談判する」


「それには及ばない」


 スヴェン達が待機部屋を出ようと扉に近づいたところに、1人の男が立ちはだかっていた。彼のローブは金色の装飾がふんだんに施されており、日光を反射しスヴェン達の視界はチカチカしている。

 この成金思考を顕著に表したローブからしてスヴェンは苦手だった。財力を笠に着る貴族のあり方を象徴している様に感じるからだ。


「それはどういう意味でしょうか?」


 オーガスにコーデリアが噛みつく。アストライア王国第2王女が直接関わってきた事に一瞬たじろぐオーガスであったが、すぐに体勢を立て直す。


「姫様、破神教の件に関してはこちらで対処します。わざわざ姫様や勇者殿の手を煩わせる必要はないと思い、あえて報告しなかったのです。連絡が遅れてしまったのは申し訳ないと思い、こうして私が直接説明に伺った次第です」


 この男の物言いに対し、スヴェン達は「しらじらしい」としか感じなかった。ここに姿を現したのもスヴェン達が行動を起こす前に、その動きを封じるという目的である事は明白であった。

 とどのつまり「我々の邪魔をせずに、ここでじっとしていろ」と言いに来たのである。


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