第118話 勇者は4人いる

「……話を戻すぞ。鉱山跡への別の侵入ルートだが、町を出て北側に進むと小さな岩場がある。そこに出入り口が隠されている。俺が案内できるのはそこまでだ。後はこの地図を見ながら正面の出入り口を目指せ。そんなに複雑な経路じゃないから、迷う心配はない」


 ネモはやや古びた羊皮紙をアラタに渡すと、そこにはジルグ鉱山跡内部の経路が丁寧に書き込まれていた。確かにこの内容なら、中で迷子になる心配はなさそうだ。


「ありがとうネモさん。出入り口を教えてもらうだけじゃなく色々貰っちゃって……おかげで無事に祠まで行けそうだ」


「ふっ、アフターケアまでしっかり行ってこそ、いい男ってもんだぜ。頑張りなチェリーボーイ」


「……チェリーボーイ言いたいだけだろ、あんた。……まぁ、いつか〝チェリー〟を外せるように頑張ってみるよ」


 魔王自身の童貞発言に少しそわそわする女性3人組。その様子に気付いたアラタ以外の男連中は、この4人の男女のこれからの進展具合を暖かい目で見守るのであった。もちろん魔王が誰とくっつくのかを賭けながら。

 そうこうしながら話は進み、決行は明日の夕暮れ時に決定した。夜間であれば、騎士団から発見されにくいという事を考慮してのことである。それまでは極力外出は避けて、騎士団に自分達の存在を悟られないように気を付ける方向性となった。



 一方、シェスタ城塞都市のアストライア王国騎士団監視塔では、ちょっとしたざわつきが起こっていた。それに気が付いたスヴェン達は、シャーリーとエルダーに情報収集に行ってもらい、彼女達が戻って来るのを待っていた。

 全員で動くよりも情報収集に長けた2人に行ってもらった方が目立たず、ここの部隊の隊長オーガスの目に留まる可能性が低いと考えたのだ。

 そのため、今この部屋ではスヴェン、コーデリア、ジャックの3人が仲間が戻るのを首を長くして待っていた。


「スヴェンは一体何が起きたんだと思う? ここに来てから、こんな事は初めてじゃないか? ようやく潜伏してる破神教の奴らの足取りでも掴めたのかな?」


「それならそれで自由に動く口実になるからいいんだけどな。……とにかく、2人が戻ってこない事には何とも……な」


 意外と冷静なスヴェンにコーデリアとジャックは顔を見合わせる、以前の彼なら感情の赴くままに動き、それを制止させるのに労力が必要であったが、魔王と出会ってからそのような軽率な行動はなりを潜めていた。 

 そればかりか、周囲に目を配るようになり、現在もここでの不当な扱いに対し不満は漏らしても暴走する事はなかったのだ。


(やっぱり、魔王さんとの出会いでスヴェンも思うところがあったみたいね。良い傾向だわ、これなら他の3人の勇者にも引けは取らないわね)


 アストライア王国には、現在勇者が4人いる。そのうちの1人が炎の大剣使いであるスヴェンである。

 その他には、地方貴族出身で光の剣使いルーク、上級貴族出身で氷雪系の槍術使いフォルカ、そして現勇者の中でも最強と名高い不戦の勇者アグニスの3名がいる。

 アグニスに関しては、その強さから戦闘になることが皆無であり誰も彼の戦いを見た事がない。一応剣を得物としているが、どのような属性の魔術を使うのかは不明である。ちなみにルークと同様に地方貴族出身である。

 彼とフォルカは同時期に勇者として認められたが、それでも実力差がありフォルカもアグニスの全力を見た事がなかった。だがそのような力を持ちながらも、くだけた人柄の彼を信頼する者は多く、貴族としてやや気難しい性格のフォルカとも親友の間柄である。

 彼ら4人がアストライア王国を守護する4勇者として世間に認知されている。余談ではあるが、この事実を初めて知った時アラタは、魔王1人に対し勇者複数はずるいと半泣きになっていた。

 スヴェンの成長ぶりにコーデリアが感心していると、彼らの部屋のドアをノックする音が聞こえ、シャーリーとエルダーが扉を開けて入ってきた。

 2人が戻ると、コーデリアはお茶を用意し彼らをねぎらい、スヴェンとジャックはひな鳥が餌をねだるが如く、早く話を聞きたいとうずうずしている。お茶を飲み干すとエルダーが相変わらず抑揚のない声で報告を始めるのであった。

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