第115話 ノーム契約への道

 その後、アラタ達は無用の外出は避けて宿屋で作戦会議をしていた。現在1階食堂の片隅にあるテーブルが作戦会議室へと変貌している。

 議題はどうやってジルグ鉱山跡にあるノームのほこらに行くかである。祠は鉱山跡の出入り口付近にあるが、鉱山跡はアストライア王国騎士団によって管理されており、常に見張りがいるのだ。

 馬鹿正直に正面から行けば、騎士団と鉢合わせし最悪自分達が魔王軍とばれて戦闘になってしまう。

 可能な限りアストライアとはもめ事は起こしたくないが、祠に行く為に他に選択肢がなければ最悪の事態も考えておかなければならない。

 ジルグ鉱山跡周辺の地図と1時間以上にらめっこをしながら全員が「うーん」とうなっており、テーブルに置かれた紅茶は既に冷めていた。

 それに気が付いた優秀娘アンナが新しい紅茶とクッキーを用意しテーブルに持ってきてくれる。


「はい、みなさんどうぞ。紅茶でも飲んで休んでください。少しリラックスしたほうがいいアイデアが浮かぶ事がありますし。あと、クッキーはサービスですのでどうぞ」


「ありがとうございます。では少し休憩にしましょう」


 アンジェがアンナの細やかな配慮に感心しつつ皆に休憩を促す。せっかくれてくれた紅茶を無下に扱うのは、いちメイドとして礼儀に反すると考えたのだ。

 それに実のところ、穏便にノームの祠に辿り着く案が浮かばなかったので意識を切り替えるのに丁度いいタイミングとも思ったのである。

 紅茶をテーブルに置きながら、ふとアンナはジルグ鉱山跡周辺の地図を視界に入れる。


「あの、皆さんジルグ鉱山跡に行きたいんですか? あそこはロックワームの巣になっていて危険ですよ?」


「それは我々も重々承知しているのですが、あそこに行かなければならない理由があるのです」


 アンナの忠告にアンジェが答えると、宿屋の娘が少し警戒心を抱くように後ずさりする様子が見られたので、急いで弁明に走る。


「盗掘目的ではないですよ。……私達はノームの祠に行きたいのです」


 自分達の隠密行動を他人に話すのは危険な行為なのだが、あらぬ誤解を受けるよりはいいだろうと仲間の反応を見て正直に目的を少女に打ち明ける。

 それにより、宿屋の客が危険な人物ではないと分かったアンナはホッと胸を撫で下ろすのであった。


「ノームの祠という事はもしかして、大地の精霊ノームとの契約目的で来たんですか?」


 興奮気味になる少女に対し、苦笑いで頷くアンジェ達。しかし、少女はますます息を荒げる始末だ。一度火が付くと会話が止まらないのは母親ゆずりらしい。


「ノームとの契約目的で来たお客さんは初めてです! 頑張ってください!」


「とは言っても、肝心の祠まで問題なく行ける方法がなくてね……」


「ああ……確かに、ジルグ鉱山跡は騎士団が管理していてギルドの人は入れないですもんね。……でも、あの人なら多分鉱山跡に入れる別ルートを知っていると思いますよ? そうすれば鉱山跡内部を通って祠に行けると思います。危険なのでおすすめは出来ないですけど」


「!! そこを詳しく!! 紅茶とケーキセットのお替わりをお願いします!」


「毎度ありがとうございます」


 宿屋の娘は商売上手であった。追加注文と引き換えに彼女から情報を得る一行。 さすがギルドの人間相手に商売をしているだけあって、その手腕は見事と言わざるを得ない。


「その人は何でも昔ジルグ鉱山で働いていたみたいで、あそこに関して色々詳しいんです。毎日夕飯を食べに来ますから、もう少ししたら来ると思いますよ」


 宿屋『ノームのゆりかご』は夕食限定ではあるが、宿泊客以外にも食堂を解放している。安くて美味しいと評判で、夕食時には宿屋の人口密度は急激に増加し一層賑やかになるのである。

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