第112話 登山部魔王軍
スヴェン達が暇を持て余していた頃、アラタ達魔王軍はシェスタ城塞都市の入場門付近に来ていた。
魔王軍以外にも、食糧や生活必需品を運んできた行商人の大規模なキャラバンが入場前の手続きを行っており、まだまだ時間がかかりそうであった。
「はぁ、はぁ、はぁ……やっと……到着しましたね」
「セス、息が荒いけど大丈夫? 少し休みましょう」
シェスタ城塞都市はジルグ山の中腹に位置し、例の如く魔王軍一行はここまで地道に山を登ってきた。その中でもスタミナが一番少ないであろうセスは息も絶え絶えでトリーシャが心配していた。
だが、あくまで魔闘士でありローブを纏っている彼にとって、現在魔力を満足に使えずローブを使用できないアラタの方が心配であった。
「ま、魔王様は大丈夫ですか?」
「え? 俺? 全然平気だけど。そっちこそ大丈夫か、セス? 顔青いよ?」
セスの思惑とは裏腹に魔王は平然としていた。その様子を見てセスは愕然とし、ドラグはアラタの体力の向上ぶりに感心している。
「魔王殿は本当に
「そんなに褒めるんじゃないよドラグ、照れるじゃあないか。まっ、日々の鍛錬の成果というヤツですよ。それに、俺達ことあるごとに山登りしてるでしょ? いい加減慣れたわ!」
「ほ、本当に頼もしくなりましたね、魔王様。これなら……ま、魔王軍も安泰ですね」
「う、うん、ありがとうセス……とにかく今はひとまず休もうよ」
ふらふらなセスを心配して受付が自分達の番になるまで休憩する事に決め、ついでに少し早めの昼食を摂る事にする。
ジルグ山は頻繁に霧がかかり、霧の隙間から覗くシェスタ城塞都市の姿は幻想的な情景として有名であり、観光客も多い。
実際にキャラバンには観光目的で一緒に来ている者も多く、入場手続きが長期化する原因の一端になっている。
だが、シェスタ城塞都市周辺の雄大な景色が周囲に広がっており、この待ち時間も特に苦にはならず、周囲から不満の声は聞こえてこない。
この日も朝方は霧が濃かったが、太陽が昇るにつれて段々薄くなり、現在は消えかかっている。
すがすがしい風が僅かに残った霧を拡散させ、登山でほてった人々の頬を撫でるのであった。
「気持ちいい風ね。ドラゴン時代は空を飛んでいる時も気持ち良かったけど、この風は優しい感じがして私は好きだわ」
「そうだな、それに風景もいいと飯もより美味く感じるな」
そう言いながら、ロックはすごい勢いでおにぎりを食べていき、お約束の如く喉に詰まらせて、差し出されたお茶でそれを流し込む。
その一部始終を見ていたアラタは「ベタだなー」と思いながら、自分は同じ
昼食が済んだ頃、キャラバンがシェスタ内に入ると一気に受付のスピードが加速し、すぐにアラタ達の番となった。
彼らの手にはシェスタ城塞都市に入る際の許可証が握られている。これはエトワールを出発する際に、ギルド協会が持たせてくれたものだ。正式な機関が発行してくれたものなので、これで大手を振って入ることができる。
当初、シェスタにどうやって入るか悩んでいた魔王軍にとって、ありがたい救いの手となったのである。
エトワールでは、ギルド協会に何から何までお世話になったので、旅に一区切りついたら菓子折りを持ってお礼に行こうとアラタ達は考えていた。
その後、魔王軍全員は無事に入場許可を認められ、シェスタ城塞都市に入ることができた。
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