第111話 シェスタ城塞都市

 ――シェスタ城塞都市、元鉱山の町であったこの都市は今や周囲を巨大な城壁で囲まれた鉄壁の要塞と化している。現在はジルグ鉱山跡を根城にするロックワームや鉱物の窃盗を目的とする輩を監視、撃退する拠点である。

 この都市にある一際ひときわ巨大な建物――アストライア王国騎士団の監視塔に以前魔王軍と共闘した勇者スヴェン一行の姿があった。


「ここに来て1週間が経ったが、破神教の連中の足取りは途絶えたままか。やっぱり少し無理してでも追撃しておけばよかった」


「今さら後悔しても仕方がないでしょう? それにあの時は私達も長旅で疲労していたし、英断であったと思うわよ」


「姫さんの言う通りだよスヴェン。それにこの辺りは騎士団の監視体制が強いから、連中に動きがあれば何かしら引っかかるはずだよ。それがないという事は――」


「この付近に潜伏している可能性が高いという事ですよね、エルダー?」


「そう、シャーリーの言う通りだよ。さすが見た目は子供頭脳は大人だね」


「……一言多いです」


 監視塔に用意された専用詰所にて、暇そうにしている4人の側でモンクのジャックだけは1人黙々と鍛錬をしている。

 6畳ほどの狭い部屋であるため、彼から発せられる熱気が次第に広がっていくのが感じられるのであった。


「だぁーーー! もう、うっとおしい! ジャック、筋トレなら外でやってこいよ!」


 ついに我慢しきれなくなったスヴェンがジャックにキレる。だが、マイペースなジャックは飄々ひょうひょうとした様子で切り返す。


「俺だってできるならそうしたいさ。でも、ここの騎士団が俺達に勝手に出歩くなって言って普段はここで待機しないといけないんじゃないか。文句があるなら騎士団の連中に言えよ、スヴェン」


 至極真っ当な意見にぐうの音も出ないスヴェンは、椅子に座り直し突っ伏してしまう。

 このシェスタ城塞都市駐留部隊の隊長オーガスは、騎士団内でも有名な貴族至上主義者であり、勇者でありながらもスラム出身のスヴェンを快く思ってはおらず、〝待機〟という名目でこの部屋に彼らを閉じ込めているのだ。

 シェスタ内での自由行動権なら既に何度も彼に要求したが、その都度色々な理由を名目に断られ現在に至っている。正直、オーガスの顔など見たくもないというのが本音であった。


「いっその事、魔物の大群でも襲ってこねーかなー。そうすりゃ、胸を張って自由に動けるし、いいストレス解消になるんだけどなー」


「お前さん、本当に勇者? 随分物騒な事を言うじゃないか」


 スヴェンの口からポツリとこぼれた言葉にエルダーは呆れてしまう。そう思ったのは、コーデリアも同様で片手を額に当てて溜息をついている。

 シャーリーは苦笑いを浮かばせながら、話題を変えようとしていた。


「そう言えば、魔王さん達は今頃どこにいるんでしょうね? マリクで会った時にはイフリートと契約しているって言っていましたけど、他の精霊と契約はできたんでしょうか?」


 話題が魔王軍の事になったとたん、スヴェンは身体を起こして会話に参加する。 心なしか、目に生気が戻ったように見える。


「順調ならシルフと契約できているだろうな。そしたら次にはここにくるはず。なんてったって、ここには大地の精霊ノームの祠があるんだからな」


 そう言いながらスヴェンは、城壁の外に見えるジルグ鉱山跡の方向に視線を送るのであった。


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