第94話 新しい仲間

 その様子を後方から見ていたトリーシャは、両手と両膝を地面について「……負けた……色々と……負けた……」とつぶやいていた。

 一方、アンジェも同様に悔しそうな表情をしている。


「いきなり現れて、あんなあられもない姿を披露した直後にハプニングを起こし、アラタ様にラッキースケベを体験させるなんて…………とても勉強になりました!今度私も実践してみたいと思います!」


 どんな状況でも魔王専属メイドにぶれはない。

 ちなみにアラタ以外の男性陣は裸の女性が現れた瞬間に背を向けて事が収まるのをひたすら待っているのであった。

 アラタは黒髪の女性に上着を渡して、それを着てもらい最低限体裁が保てる状態になると、彼女に状況説明を仰ぐ。


「どうして私もこんな事になったのか……私はブラックドラゴンだけれど……どうして武器じゃなくて人の姿になっているのかしら?」


 その女性は、先程まで瀕死の状態であったブラックドラゴンであった。状況から推察するにもしや、と皆が思ってはいたが本人からの告白で予想が確実なものになったのである。

 しかし、当の本人にも何故自分が人間になっているのか分からない状況であったが、唯一アラタには心当たりがあった。


「実は、俺ドラゴンオーブに武器になってくれとは願わなかったんだよ」


「魔王様……それは何故ですか? ブラックドラゴン本人の意向であったのに」


 バルザスの意見は最もだと思いつつも、ブラックドラゴン改め半裸の美女を見つつアラタは自分の思った事を吐露とろした。


「そりゃあ、強力な武器が手に入ったらすごく助かるとは思うよ……でも、そうなったら1000年間グランを思っていた、この人の気持ちは残らない。それは、なんか嫌だなって思ったんだよ。……だから、ドラゴンオーブには彼女の望みを叶えて欲しいって願った。……それが1番いいと思ったんだ。……だって、これは彼女の命そのものなんだから、彼女が自分のために使うのが正しくないか?」


 一瞬少し呆気に取られていた皆であったが、すぐに「アラタらしい」と思い、笑い声が上がる。

 その様子を、不思議そうな表情で見ていた元ブラックドラゴンの女性も、少しずつ顔をほころばせて皆の笑いに加わるのであった。



 それから少しして、元老竜の女性はアンジェの服を借りて、今後の事を話し合っていた。

 どうやら胸のあたりが少し窮屈らしく、やたらと胸元が押し出されるように強調されていた。

 その様子を横目でチラチラ見てしまうアラタであったが、その都度トリーシャの表情が段々と不機嫌になっていく。


「マスターは確か、大きい胸が好きなんでしたよね。良かったですね、大きい胸に出会えて!!」


 強い口調と不機嫌な表情でアラタを非難するトリーシャであったが、同時に抜群のプロポーションを持つ元老竜の女性に羨望の眼差しを向ける。


(いいなぁー、あんなに凄い身体だったら、おっぱい星人のマスターはイチコロだろうなぁー。私もあんな風になりたいなー)


 トリーシャの視線に気が付いた女性は、「どうしたの?」と声をかけるが、トリーシャは顔を赤くして「なんでもない」と俯いてしまう。

 彼女から溢れ出す母性は強力で、同性でありながらも、甘えたくなるような不思議な魅力があり恥ずかしくなってしまう。

 そのような中、元ブラックドラゴンの今後について本人に希望を聞くと、武器になる気満々であったので特に決めていなかったとの事であった。


「せっかく、希望していた人間に転生できたんだから、これからは人生を謳歌すればいいんじゃないかな?」


「ですが、生活はどうするんですか? 資金面はもとより住まいの問題もありますし……」


「「うーん」」


 色々と考えてはみたが結論は出なかった。その時、本人が提案をしてきたのであった。


「あのー、もしよければ私も皆に付いて行っていいかしら?」


「ですが、我々は破神教と戦わなければなりません。そうなれば御身が危険に晒されることになりますぞ」


「その事なんだけれど、私達が戦ったブラックドラゴン……あの子は私の実の妹なの。今は十司祭のブネと名乗っているけど本当はルシールと言う名前よ」


 彼女の告白に皆が驚いていた。彼女の話が本当ならば、先の戦いは姉妹による死闘であったからである。


「あの子は神魔戦争の終盤で同盟軍を裏切ったわ。……永遠の若さと命をベルゼルファーから与えてもらうのと引き換えにして。……そして、今もその復活のために活動している。だから、あの子を止めるのが私の役目。老いた身体では、どうしようもなくて武器になってあなた達の力になれたらと思っていたけれど、こうして人間になった今としては私自身でやり遂げたいのよ。……だから、私も新しい魔王軍に加えて欲しいの。お願いします」

 深々と頭を下げる彼女に対して、その希望を断る理由は彼らにはなかった。

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