第54話 いつか交わる道
トーマス兄弟と別れ、魔王軍に合流すると、ロシナンテのメンバーとセス達が話し込んでいた。
アラタに気が付くと、ロシナンテのギルド長であるロッシュが先日のお礼を述べるが、自分は特に何もしていないと
「……君は魔王なのに随分と腰が低いんだね。俺のイメージだと、魔王と言ったら、こう……
「いや、まあ……世間的イメージではそうなんでしょうけど、これが俺なんで」
ロッシュは、アラタの分け隔てのない態度に好印象を持ったらしい。
「もし、ギルドに興味があったら、ぜひ〝ファルナス〟に来てくれ。この辺りのギルドを中心とした町では最大規模の土地でね、俺達も活動拠点をそこに移そうと考えているんだ。今回の失敗を踏まえて、そこで一からやり直してみようとね」
ギルドといえば、ファンタジー物の漫画やゲームで度々耳にしている。
主人公がギルドに登録してクエストをこなして収入を得るといった展開は、ファンタジー物の王道だ。
そのため、ギルドに興味津々なアラタは、早速色々とロッシュに質問していた。
ソルシエルにおけるギルドの立ち位置は概ねアラタの想像していた通りのものであった。
ギルドは基本的にギルド協会に登録し、そこで紹介された依頼をこなして収入を得ている。
一口にギルドといっても、その種類は色々あり、傭兵、商会、鍛冶など多岐にわたり、人々の生活に大きく関わっている。
ただ、このようなギルドの活動は、アストライアのような独自の騎士団や商会を有する国との折り合いが悪いため、国の干渉が比較的少ない土地での活動がメインであった。
といっても、国の威光が主に行き届くのは首都を含む周辺地域のみであり、ギルドの活動範囲は広く、辺境の地域では騎士団の援助を受けられることなど、ほぼないため非常に重宝されているのが現状であった。
(いつか、機会があったらファルナスに寄ってみたいな)
その後、魔王軍は、行商人一家とロシナンテに別れを告げて、次の目的地であるバルゴ風穴に向けてマリクの南門を出発した。
「団長。あの……魔王軍の事は協会には報告するんですか?」
ロシナンテの団員がロッシュに尋ねていた。もし、報告するとなれば、大きな混乱を呼ぶかもしれない。
さらには、魔王軍を名乗る者達が動き出したとの話を受けて、討伐隊が編成され、魔王達の身に危険が及ぶ可能性がある。
今回の件で助けてもらった彼らに迷惑がかかる事態になるのだけは避けたかった。
きっと、そのような事は当然ロッシュも承知のはずだが、彼から意外な答えが返ってくる。
「当然、協会への報告は行う」
「ええ~~~~!?」
驚きの声を上げるロシナンテの面々ではあったが、ロッシュは彼らに落ち着くように促すと、続けて補足する。
「ただし、報告内容はちゃんと正確なものにしないといけない。彼らがしてくれた事は魔王乱立時代のそれとは全く違う、世間的な魔王軍のイメージとはかけ離れたものだ。俺は、今後彼らがギルド協会からいらぬ誤解や偏見を持たれないように、彼らの存在を協会に伝えることが大切だと思う」
普段、少し頼りないロッシュの変化に驚きながらも、彼の意見に頷くロシナンテの団員達。
以前からやる気が希薄であった彼らは、ギルド協会から心配される存在であったが、今回の件を機に、このギルドは生まれ変わることになる。
そして、破神教と戦う魔王軍に大きく関わっていく事になるのだが、それはまだ先の話である。
「あの、ロッシュさん。その話僕にも詳しく聞かせてもらえないですか?」
ロッシュ達の会話を聞いていたトーマスは、その話を無視する事が出来なかった。
今回の件で魔王軍と関わった人物達は、幸か不幸か立場がこれまでと大きく変化することになる。
トーマスもその一人であり、ロシナンテ以上に魔王軍にとって重要な関わりを持つ事になる。
この後、ロッシュ達はファルナスに赴き、魔王軍の事をギルド協会に報告する――結果、新たな魔王軍の活動再開が世界に知れ渡るようになり、同時に破壊神の復活を目論む組織の存在も噂されるようになるのであった。
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