第48話 共闘
先の平原での戦いとは違い、ベヒーモスは最初から積極的に攻撃に加わっていた。
アンジェは、ベヒーモスの攻撃範囲から離れつつ、レインショットでゾンビ化したビエナの数を減らしていく作戦だ。
だが、ゾンビ化した事で痛覚がないのか、ビエナの群れは攻撃を受けようともたじろぐことなく前に出てくる。
「……厄介ね。まるで傷つくことを恐れないバーサーカーみたい。小手先の攻撃ではら
アンジェが、好転しない現状に1人
「それなら、一気に強力な攻撃で敵を行動不能にするしかないでしょうね」
コーデリアが、アンジェの呟きに答える。
「いいのですか? 勇者様一行が、魔王軍の手助けをして?」
それに対し、コーデリアも同様に笑みを浮かべて問いに答える。
「私達は、勇者のパーティーよ。目の前に魔物に襲われている人がいるのなら助けて当然! でしょ?」
一国の王女からの正論を聞き、眼前の魔物の群れに対し再びアンジェは戦闘態勢を整える。
その掌には先程のレインショットの時よりも大きな魔法陣が展開されていく。
「分かりました。では、ご助力に感謝いたします。コーデリア姫様、勇者パーティーの皆様、よろしくお願い致します」
「そんなにかしこまらなくてもいいわよ。私の事は普通にコーデリアって呼んで頂戴」
「分かりました。それではコーデリア様」
コーデリアとしてはもっと砕けた感じで呼んで欲しかったが、このメイドはやはり生真面目な性格の様だと思うと、呼び方に関しては後でいいかと思い直す。
とにかく、何よりも今は目の前にいる、復活した魔物の群れの駆逐が最優先なのだ。
「さてと、いっちょやりますか!」
そう言うと、ジャックは全身に風のオーラを身に
トリーシャと比較すると、ジャック自身の俊敏性は彼女よりも劣るが、この突進攻撃時の瞬発力は凄まじく、風のオーラに触れた者は体が押し潰されるか、吹き飛ばされた反動でバラバラになっていく。
パワーでは、ジャックに分があるようだ。
一方、仲間がバラバラに吹き飛ばされたというのに、他のゾンビビエナには全く怯む様子が見えない。
その多くは眼球を失っている状態ではあったが、現存している物に関しても、そこは既に光を失い眼前にいるアンジェ達を見てはおらず、見当違いな方向を見ている。
どうやら、既に目としての機能を失っているようだ。その様子が一層、この復活した魔物達の不気味さを際立たせていた。
ゾンビのようになった外見とは異なり、ビエナ本来の俊敏な動きは健在であり、一気に間合いを詰めてくる。
スヴェン達が、近づいてくるゾンビビエナ達に身構えると、途端にその腐食した魔物の群れが動きを止める。
何事かと
その時既に魔物達の足は凍り付いており、同様に凍った地面と一体化していたのである。
そして、次の瞬間には、動くこともままならないゾンビビエナの足元の魔法陣から凄まじい冷気がほとばしり、急速にその腐敗しつつある身体を凍らせていく。
数秒後には、約10匹のゾンビビエナが巨大な氷の中に収まり、活動を再び停止していた。
その様は、さしずめ氷の棺といったところか――。
「……アイスコフィン」
アンジェが静かに言うと、氷の棺に次々に亀裂が走り、瞬く間に粉々に砕けてしまった。
当然、氷の棺内にいたゾンビビエナの集団も一緒に砕け散っていった。
「お見事ね!」
一瞬でゾンビビエナの集団を消滅させたアンジェの手際に、感嘆するコーデリアではあったが、同時に危機感も増していた。
(彼ら、魔王軍の個々の実力はかなりのものだわ……それも恐らく発展途上。若者ばかりだし伸びしろはいくらでもある。……特にあの魔王の実力は未知数。封印が解かれた時、どれ程の力を発揮するのか見当もつかないわ……もし、彼らが私達と敵対するような事になったら、とてつもない脅威になる。ただでさえ破神教との戦いに備えなければならないというのに……)
自己問答するコーデリアは、前方で敵に切り込んでいくスヴェンに視線を送る。
スヴェンは人1人分程の巨大な剣を軽々と振り回し、近づくゾンビビエナを叩き切っていく。
さらに切り込まれた部分から発火し、ゾンビビエナは瞬く間に火だるまになっていた。
そのため、戦場ではあちらこちらで燃え盛る魔物が横たわっており、さながら地獄絵図のようである。
(スヴェン、あなたはどう考えているの?)
魔王軍とどうしていけばいいのか、答えが出ないコーデリアではあったが、まもなく問答する余裕もなくなる。
前座であるゾンビビエナの掃討がほぼ完了し、遂にゾンビ化したベヒーモスとの本格的な戦いが始まったからである。
コーデリアは、残存するゾンビビエナをレイピアによる素早い刺突攻撃で倒していくが、数だけは多い魔物の群れは集団で彼女を襲う。
だが、敵が近づくよりも早く、コーデリアはレイピアの刀身に魔力を集中すると、雷が発生するのであった。
「この攻撃から逃げられるかしら? サンダーウィップ!」
コーデリアが叫ぶと同時に、彼女のレイピアの刀身から電光が伸び、近づく魔物をまるで鞭のように叩きつける。
電光の鞭の動きは素早い上に変則的であり、彼女に近づくゾンビビエナは、ことごとく叩き伏せられていくのであった。
しかし、決定打にはならず、再び身体を起こそうとした時、無数の氷の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます