第49話 正義の味方2人
「ありがとう、助かったわ」
コーデリアは、先程の氷の
それに対して、アンジェはスカートの裾を少し上げて、「どういたしまして」と返答するのであった。
その後、2人の美女は連携して確実に敵の数を減らしていくのであった。
そのような中、凄まじい衝撃波が地面をえぐりながら勇者一行を襲った。
直撃は避けたものの、その余波で吹き飛ばされる魔闘士達。彼らの眼前には、ゾンビと化したベヒーモスが地面に拳を打ちつけ
「地面に打撃を加えた衝撃波でこれだけの破壊力があるのか。半端ないな」
ジャックの顔には焦りが見えていた。
魔王軍の戦いを見ていた時にも、ベヒーモスの圧倒的な迫力には背筋が寒くなる思いがしていたが、実際に対峙すると、その圧迫感や恐ろしさは段違いであった。
どうやってダメージを与えていこうかと思案する中、ある呪文が木霊する。
「グラビティ」
その瞬間、巨大な魔物の周辺の空間が歪むと、ゾンビベヒーモスの動きが停止した。
それだけでなく、少しずつ、その巨躯は地面に倒れ込みそうになりながらも耐えている様子を見せている。
何が起きているのか全く分からないアラタ達であったが、その横でバルザスが状況説明を始めた。
「あれは重力系の魔術だ。今、あのベヒーモスには普段の何倍、いや何十倍もの加重がかけられている。動くどころか、立つこともままならないはずだ」
バルザスが説明を終えないうちに、自重を支えきれなくなったゾンビベヒーモスは膝を折り、最初に姿を見せたように四つん這いになり、まもなく地面に組み伏せられたようにして自分の思うように動けなくなっていった。
身体を起こそうともがいても、より大きな力で押さえつけられているようである。
「す、すごい。こんな強力な魔術があるなんて」
驚きを隠せないアラタ達ではあったが、この強力な魔術の問題点もバルザスは知っていた。
「確かに重力系の魔術は強力だ。だが、その分魔力の消耗が激しいため、乱発は出来ないし長期戦には向かない。使いどころが難しい魔術なのだよ」
実際に、重力魔術でゾンビベヒーモスを地面にくぎ付けにしているエルダーの負担は大きく、「そう長くは持たない、今のうちに止めをさせ」と仲間に指示を飛ばしている。
だが、これだけの巨大な魔物を倒すにはセスが行った様な強力な攻撃が必要であった。
中途半端な攻撃をしていては、エルダーの魔力が限界に達してしまう。
そんな折、スヴェンが魔力を高め始めていた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
スヴェンの身体を赤い魔力のオーラが包み込み、それは彼の大剣の刀身へと集中していく。
大剣には深紅の炎が溢れ出さんばかりに
スヴェンは目の前にいる巨大な魔物を鋭い目で睨み付けると、極限まで高めた炎の魔力を解放し斬撃としてゾンビベヒーモスへと解き放つ。
「燃えろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ! ブレイズワイドクリムゾン!!」
スヴェンの大剣から放たれた巨大な炎の斬撃は、ゾンビベヒーモスの頭部に命中すると、頭部を一瞬で焼き切り、その巨大な身体を真っ二つに切り裂きながら炎で包み込んでいく。
エルダーの重力魔術で押さえつけられているからか、ゾンビベヒーモスは低い唸り声を上げたのみで、まもなく深紅の炎に焼かれ崩れていった。
その戦いを、少し離れた所で見ていた魔王軍の面々は、勇者の強さに驚愕していた。
いくら、動きを止められていたとはいえ、あれだけ苦労して倒したベヒーモスを一撃で倒してしまったのだ。
特に、同じ炎系の魔術を使うセスは、スヴェンの炎の威力に格の違いを見せつけられた思いであり、表情には苦渋の色が見られる。
そして、バルザスも冷静にスヴェンの強さを分析していた。
(……何という技だ。炎の威力も凄まじい上に、あれだけの魔力を集中させた大剣を暴走させる事なく見事に振り抜く
復活したベヒーモス達との戦いは、思ったよりもあっけなく終わったと皆が思っていた時にそれは起こった。
アラタ達がいる荷馬車の付近の茂みから、ゾンビビエナが一匹現れたのである。
魔物の狙いは荷馬車の中にいる行商人の家族であり、迷うことなく突っ込んでくる。
獣の習性からか、この中で一番弱い者を狙ってきたのだろう。
戦いが終わったと、一瞬気が緩んでいた魔王軍は、いきなり現れた伏兵への対処が遅れてしまい、魔物の荷馬車への侵入を許してしまう。
「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
いきなり目の前に現れた魔物の姿に恐怖する行商人の家族。
彼らにゾンビビエナが襲い掛かろうとした、まさにその時であった。
その魔物は突然の真横からの衝撃に吹き飛ばされ、付近の木に叩き付けられたのである。
しかし、そのダメージは大きくはなかったらしく、すぐに体勢を立て直す。
魔物が顔を上げると、その目の前には、冒険初心者用の
「あっぶねーなこの野郎!」
目の前にいる魔物に対し強気の言葉をぶつける魔王。しかし、内心は恐怖と焦りで一杯一杯であった。
(俺には魔力がない。皆みたいに魔術で倒すなんて芸当は不可能だ。この剣も、訓練用で殺傷能力は高くない。……どうする?)
魔物に1人で立ち向かおうとするアラタに加勢をしようと動き出すセス達であったが、バルザスが彼らの前に立ち塞がっていた。
「バルザス殿! なぜ邪魔をするのですか! あなたは魔王様を殺す気ですか? そもそも、何故あなたは魔王様を助けようとしないのです?」
バルザスに怒りと疑念をぶつけるセス。
ロック、トリーシャ、ドラグも同様にバルザスを睨んでいる。若者達の攻撃的な視線を受けながら、バルザスは重い口調で語る。
「これは、魔王様にとって、いや、ムトウ・アラタという少年にとって必要な事なのだ」
バルザスの言葉に意表を突かれるセス達。アラタにとっての危機的状況が何故彼のためになるのであろうか?
「セス。お前は今までの戦いの中で魔王様の気持ちを考えた事があるか?」
「魔王様の気持ち……ですか?」
バルザスが何を言わんとしているのか全く分からないセス。そんな彼の顔を見て老兵士は話を続ける。
「魔王様は、自分が戦えない事に強い劣等感を抱いている。あまり口に出そうとはしていないがね。自分の選択により戦いが起こっても、自分では戦えず我々が戦う事になる。それによって生じる我々の被害をいつも気に病んでいる。だからと言って、魔力を使えない現状ではどうしようもない現実がある。そのような状況で、せめて少しでも強くなろうと、彼はロックとの訓練や私からの剣術指南を受けているのだよ」
バルザスの言葉にハッとするセス達。
これまでのアラタの言動に思い当たるふしが多々あった事に気が付く。
それを思うと、今はただビエナと戦うアラタを見守る事しかできなかった。
アラタは今、自分の力だけで状況を打開しようと、もがいているのだ。
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