第42話 接触! 魔王軍と勇者パーティー

「全く気配を感じなかった……かなりの手練れだ。皆、注意しろ。もしも、私達と敵対する相手であったならば苦戦はまぬがれないぞ」

「「了解」」


 小声で注意を促すセスとそれに答えるトリーシャ達。

 彼らの表情には余裕がなく、重たい緊張感が疲弊した身体を押し潰しそうになる。

 体力的にも魔力的にも、全てを出し切った彼らには既に余力はなかったのである。

 セス達が特に警戒したのは、長身の茶髪の男だ。

 明らかに他の者とは一線を画したプレッシャーを発している。

 もし、万全の状態であったとしても、勝てるかどうか見当が付かない程であった。

 それだけの存在感を彼は放っているのだ。まるで「無駄な抵抗はやめておけ」とでも言わんばかりである。

 その状況に気付いたコーディは、その茶髪の男――スヴェンに向き直って彼の行動をたしなめていた。


「スヴェン! そうやって無暗に魔力を相手に向けるのはやめなさい! 私達は別に戦いに来たのではないのよ!」


 だが、スヴェンは彼女のお怒りにも飄々ひょうひょうとした態度をしている。どうやら、このような事は日常茶飯事であるらしい。


「……まぁ、そうだがな。でも事と次第によっちゃあ、その限りでもないだろ?」


 スヴェンの反応に溜息をついた後、セス達に向き直りコーディは単刀直入に話を切り出した。


「誠に勝手ながら、私達はあなた方の戦いを見させていただきました。最初は援護に入ろうと思ったのですが、私達が余計な手出しをするまでもないと判断しました。現に、あなた方はたったの4人であのベヒーモスを倒してしまった……さらに、他にも大多数の魔物も相手取っていたようですね」


 セス達に不快な印象を与えないように言葉を選んで接するコーディに悪い気はしないものの、本題はこれからなのだろうとセス達は息を呑む。

 そんな彼らの様子を確認しながら、なるべく刺激せず、しかし明確にすべきことは明らかにしたいコーディはゆっくりと話し続ける。


「あなた方が、かなりの手練れであるということは分かりました。ですが私達が知る限り、ギルド協会に属する魔闘士でベヒーモスを少人数で倒せる人材は限られています。そして、その中に少なくともあなた方の姿はなかったと思います……であるならば、あなた方は一体何者なのか疑問に思ってしまったのです。そして、それを明確にしておきたいと思っている所存です」


 ここまで彼女が話した所で、ドラグが一歩前に出てコーディ達に返答する。

 屈強な肉体を持つ竜人族の雄雄しい姿に、やや気圧されるスヴェン一行。

 その様子を見て、スヴェンにやられっぱなしであったドラグはやや得意げだ。


「つまり、あなた方の言い分はこういう事ですな。『お前達は一体何者なのだ。正直に話せ』と」


 コーディが極力丁寧な表現にした亊を、かなりかみ砕いた表現にし直すドラグ。 その目は先程までの得意げな笑みはなく、真剣そのものだ。コーディは、ただ黙って頷くだけであった。


「我々が一体何者なのかを、あなた方に話す理由が見当たりませんな。それに、我々が何者なのかを知りたいのであれば、まず自分達が何者なのかを名乗るのが筋ではありませんかな?」


 言葉に圧を含みながらも、コーディの礼儀ある言動に礼儀で返す。

 彼の返答に対してスヴェンが一瞬動こうとするが、コーディは片手で制して切り返す。


「……確かに、あなたの仰る亊はごもっともです。こちらの配慮が足りなかったことをお詫びします」


 コーディ達とドラグ達の間で重々しい空気が充満する。これ以上、この状況が悪化すれば最悪戦いにもなりかねない。

 そんな状況下であの男が姿を現した。


「あー、やっぱりスヴェンじゃん! それにコーディさんも! 騎士団の仕事でここに来たの?」


 一触即発の空気を一刀両断する程の緊張感のない声が周囲に木霊する。

 アラタとアンジェが、この状況を見かねて急いで駆け付けたのだ。

 まだセス達がベヒーモスと戦っている時に、スヴェン達の存在に気が付いたアラタは、戦いが終了した後に、このような状況になるのではないかと予想していた。 そのため、急いでここまで戻ってきたのである。

 そして、現状はアラタが予想していた以上に両者の雰囲気は悪く、下手をしたら取り返しのつかない事になりかねない状況だ。

 アラタは表面上、屈託のない明るい人間を現在演じてはいるが、心中は何とかこの状況を丸く収めなければならないという緊張感で一杯一杯であった。


(スヴェン達はアストライア王国騎士団の人間だ。俺達が魔王軍だとばれたら普通に考えて見逃されるはずがない。とにかくごまかさないと!)


 アラタとアンジェが現れた事に驚くスヴェンであったが、それを表情に出したのは一瞬で、すぐに厳しい表情に戻っていた。

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