第41話 ベヒーモスのち金髪美女
ベヒーモスが動かなくなったのを確認すると、セスは安堵したのか、その場に崩れ落ちそうになる。
だが、完全に倒れ込む寸前にドラグが滑り込み身体を支えていた。
「すまない、ドラグ。先程の術に残りの魔力を使ったからか、しばらくまともに動けそうもない」
「ならば、その間拙者がセス殿を支えます。まだいくらか余力がありますゆえ問題ありません……見事な一撃でしたな」
ドラグにそう言われて、セスは頬が緩んでいた。
普段は魔術を使用した際に、攻撃範囲や周辺被害がどうのと言われることが多く、褒められたことが少なかったため、仲間からの称賛を純粋に嬉しく感ていた。
ふと気が付けばロックとトリーシャも合流し、未だ燃え盛る強敵の姿を眺めている。
「正直言うと、最初の攻撃を受けた直後、あいつに勝てるとは思ってなかったのよね。途中で撤退して援軍を待つとか、とにかく自分達の力だけじゃ絶対に無理だと思った。でも、勝てちゃった」
やや放心状態の中、トリーシャがぽつりと
「実は俺も同じことを考えてた。奴がいきなり立ち上がって、一撃をもろに受けて吹き飛ばされた後、少しの間気絶してたしな。意識が戻って、すぐに合流しようとも思ったけど、確実にダメージを与えるには顔かなって思って。だったら、奴が作った穴を利用して落とし穴を作れば戦いやすくなるかと思ったんだ」
「確かに、ベヒーモスが崩落した後は一気に戦いやすくなりましたな。あの俊敏な動きを封じることも、角を破壊することも出来ました」
「ここにいる全員がベストを尽くしたからこそ、得ることが出来た勝利だ。誰か1人でも欠けていたら勝つ事は出来なかっただろう」
4人は未だ自分達が勝利した事に実感がわかない状態ではあったが、伝説にも残る強大な魔物を討ち取った事実に少しずつ高揚感を覚えていた。
その激戦の一部始終を見ていたアラタは、皆の戦いぶりに只々感心するばかりであった。
「皆すごいな。俺は、ベヒーモスの最初の攻撃で心が折れてた。でも皆、あんな状況でも諦めずに戦って勝利した。改めて俺の仲間はすごいんだなって思ったよ」
この戦いを通して、最後まで戦い抜いた仲間に
アンジェは戦いが無事に終わったことに安堵している様子だ。
バルザスも同様にほっとした様子であったが、同時に激戦を戦い抜いた若者達の成長ぶりに驚くばかりであった。
驚いていたのは彼らだけではない。
この場に到着していたスヴェン達も、謎の一行が戦っているのがベヒーモスだと判明した直後は、すぐに戦闘に加わろうと考えていた。
しかし、以外にも彼らが善戦していることから静観へと方針転換をした。
もし彼らが危なくなるようであれば、すぐにでも救援できる位置で待機していたのだ。
だが、それは
ベヒーモスと戦っていた4人は、想像以上の手練れであり所々危険な瞬間はあったものの、最終的には圧倒する形で勝利を得たのである。
しかし、同時に勇者一行は疑念を抱くのであった。
「あいつらは一体何者なんだ? たった4人でベヒーモスを倒すなんて、名のある傭兵ギルドでもそんな亊をできるのは限られるはずだ……でも俺が知る限り、そういったギルドには、あいつらはいなかったはずだ……だとしたら新規のギルドなのか? それとも、まさか、あいつらが――」
疑念が募るスヴェンを見て、コーディは少し笑いながら彼に語りかける。
「この場合、あれこれ考えたって結論は出ないでしょう? なら、直接話をしてみるしかないじゃない?」
そう言うと、セス達の方にすたすたと歩きだす金髪碧眼の美女。
先程、危険極まりない魔物を倒した正体不明の一行に向かっているというのに、彼女に気後れする様子は見られず、実に堂々とした様子であり、どこか優雅さをも感じる。
その様な気品溢れる美女が、いきなり自分達の近くに現れたため、セス達は少し混乱状態に陥った。
((この女性は一体誰? なんでこんな所にいるの? いつからいたの? ……なんでこんなに堂々としているの?))
そのちょっとした混乱の中、ロックだけは少し違う反応を見せていた。
(あれ? この人どこかで見た事あるなー。どこで見たんだっけ? 確か、こんな戦場とは違う、場違いな所で見たような……)
混乱するセス達をよそに、彼女は堂々とした姿勢を崩すことなく話しかけてきた。
「皆さま、お疲れさまでした。私、皆さまの素晴らしい戦いぶりに深く感銘を受けました」
謎の美女からの、いきなりの称賛に一同「……はぁ」と気の抜けた反応をしてしまう。
未だにこの謎の美女の目的が分からないからだ。
少なくとも敵意は感じない事から、危険人物の可能性は低いという印象だ。
「私達は、こちらに魔物に襲われている行商人のご家族と護衛のギルドの方々、そして彼らを助けに行った一行がいるとマリクで話を聞いて、援護に来たのです」
彼女が自分達が何故ここにいるのかを明らかにしたと同時に姿を現すスヴェン一行。
彼らの存在に気付いていなかったセス達は、急に現れたスヴェン達に驚きを隠せないでいた。
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